逆境が育てたサッカー選手

非エリートぞろいの日本代表

 最高峰の選手が一堂に会するサッカーのワールドカップ(W杯)。えりすぐりの逸材がブラジルに集まる中、日本代表は入団テストに落ちるなど、エリートコースから外れた経歴を持つメンバーが多い。(イトゥ〈ブラジル〉時事)

本田、長友、香川らの道のり

逆境が育てたサッカー選手

小学生時代のサッカー日本代表・香川真司選手(中央)(大木宏之さん提供)

 イタリア1部リーグの名門ACミランに所属し、日本の大黒柱となった本田圭佑選手(28)。日本人で最も成功したサッカー選手の1人だが、平たんとは程遠いサッカー人生を歩んできた。

 中学時代はガンバ大阪の下部組織に所属していたが、高校進学時に内部昇格できなかった苦い思い出がある。2008年に移籍したオランダ1部リーグのチームでは、2部への降格を経験した。

 イタリアでは、ACミランと並ぶ人気チームのインテル・ミラノで活躍する長友佑都選手(27)も苦労を重ねた。小学6年の時、地元チームの入団テストを受けたが不合格。明治大へ進学する際は、高校時代に無名だったため、スポーツ推薦を得られなかったという。

 香川真司選手(25)を小学生時代に指導した大木宏之さん(43)は「6年生の時に関西地区の選抜に漏れ、悔しそうにしていたのが印象深い」と話す。

 「成長には挫折の経験が欠かせないが、最近の子供は打たれ弱くなっているようにも感じる」と指摘する。

 コートジボワール戦に先発した大迫勇也選手(24)は、U17 (17歳以下)やロンドン五輪の代表入りを最終選考で逃した。高校時代に指導した小久保悟さん(46)も「はい上がってくる選手は伸びる」という考え方だ。

 日本は初戦に敗れ、1次リーグ突破は厳しさを増した。恩師らが口をそろえる「逆境に打ち勝つ強さ」を見せられるか。


食べ物分け合う少年時代が原点

チーム引っ張る本田選手、離れた家族への思い胸に

 サッカーの日本代表は24日(日本時間25日)、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会で強豪コロンビアに挑む。強気の発言でチームを引っ張ってきた本田圭佑選手(28)の個性について、東京五輪のカヌー代表だった大叔父の大三郎さん(79)は「親と離れ離れになり、兄弟で食べ物を分け合った貧しい少年時代に原点がある」と話す。

 本田選手は小学2年の時、両親が離婚。引き取った父司さん(54)は仕事に追われ、大阪府摂津市の祖父母宅に兄弘幸さん(30)と預けられた。

 同い年のいとこも加わり、6畳間で始まった肩を寄せ合う暮らし。当時サッカーを始めた本田選手について、大三郎さんは「食べ物一つを分け合う生活の中、出会ったのがサッカーだった」と指摘する。裕福とは遠い環境にあっても、日没まで空き地でボールを蹴り、兄と枕を並べてプロ選手になる夢を語り合った。

 「セリエAに入団」「(背番号)10番で活躍」。4年前の南アフリカ大会で活躍した際、将来の夢をつづった小学校の卒業文集が反響を呼んだ。

 その後、セリエAの名門ACミランに移籍し有言実行。「世間の耳目を集め、活躍する姿を家族に伝えたいのだろう」。大三郎さんは強気の発言に込めた思いを推察する。

 小学生だった本田選手は小遣いをため、遠方の母親に会いに行ったことがあるという。文集には「大金持ちになって親孝行する」と記していた。

 父親代わりだった祖父満さんは昨年、ブラジルでの勇姿を見届けることなく他界した。セリエA最初のシーズンを不振のまま終えた本田選手だが、大三郎さんは「苦境に立ち、のちのち生きる技を学んだはず。得点を決め、エースとしての責務を果たしてほしい」と奮起を願っている。