薬物防止教育、教員の啓発がカギ
3割が脱法ドラッグの有害性説明できず
今月26日は国連が定めた「国際薬物乱用・不法取引防止デー」。わが国では昨年8月、第4次薬物乱用防止5カ年戦略が策定されたが、その中で重要課題として掲げられているのが学校における乱用防止教育の充実強化だ。しかし、民間団体の調査で、若者への蔓延(まんえん)が懸念される脱法ドラッグについて、教員の3割はその有害性を説明できないと答えており、教員に対する啓発が大きな課題となっている。(森田清策)
「研修・講習受けた」も12%だけ 民間団体調査で課題明確に
首都圏を中心に学校や地域での講演など、薬物乱用防止活動を行っている民間団体「日本薬物対策協会」は昨年3月から今年2月にかけて、小中高校の教員781人を対象に、脱法ドラッグについてのアンケート調査を行った。
それによると、脱法ドラッグについては「聞いたことがある」「知っている」を合わせると、ほとんどの教員がある程度は知っていることが分かった。しかし、その有害性を説明できる割合になると、「簡単に説明できる」は63%だが、「明確に説明できる」は7・2%だけ。ほぼ3割は「はっきり説明できない」と答えている。
また、約47%が児童・生徒への防止教育の中で、脱法ドラッグについての内容を聞いたことがあるが、「研修・講習を受けたことがある」と答えたのは12%にとどまった。ほとんどの教員が知っているとしたのは、その多くがメディアを通じた情報であることも分かった。
脱法ドラッグは、覚醒剤や麻薬と同じように、幻覚や興奮作用があるにもかかわらず、規制対象になっていない薬物。乾燥させた草などに薬物を添加するほか、パウダーや液状の形体もある。
「合法ハーブ」と称して売られることも多いが、その呼称からくるイメージとは裏腹に、覚醒剤に似た薬物が添加されたり、どんな薬物が入っているのか分からないこともあって、覚醒剤と同等か、それよりも危険と言われる。
国は規制の網を拡大(包括指定)して、規制対象となる薬物を増やしている。また、指定薬物についてはこれまで製造・販売が禁止となっていたが、今年4月には改正薬事法が施行され、所持・使用も禁止となるなど対策強化が進む。しかし、規制の網の目を逃れる新たなドラッグが登場しており、“いたちごっこ”はまだ続いている。
一方、同協会は昨年9月から12月にかけて中高生約5200人を対象に、薬物に対する意識調査を行った。それによると、「1回で影響があるので絶対ダメ」約72%、「意志とは関係なくやめられなくなる」約61%と、多くは正しい知識を持っていた。しかし、「1回だけなら影響がなく大丈夫」4・4%、「意志が強ければ1回使用しても中毒にならない」3・6%と、間違った認識を持っている子供がいることも分かった。
この調査結果について、同協会世話役の馬崎奈央さんは「子供たちへの効果的な教育の実施と同時に、教員に対しても、薬物の正しい知識を伝える教育が求められるべきです。担当科目などに関係なく、人生そのものを台無しにする薬物についてきちんと知識を持ち、子供たちに伝え、対処できるように、教育者としての一般知識として身につけてほしい。そのためのシステム作りが今こそ必要です」と訴える。
先月17日に人気男性デュオ「CHAGE and ASKA」のASKA容疑者(56)=本名・宮崎重明=らが覚醒剤所持容疑で逮捕された事件は、薬物乱用について社会の関心を高めたが、その一週間前には福岡県内の小学校校長が同じ容疑で逮捕され、教育界に衝撃を与えた。
文部科学省はすべての小中高校の児童・生徒を対象にした薬物乱用防止教育を年間最低1回行うことを指示しているが、その徹底とともに教員向けの研修・講習の普及も課題となっている。