雑煮におせち、正月につなぐお袋の味


お正月 おせち料理

おせち料理

 元日の朝に食べる雑煮に入れる餅は、東日本が四角で、西日本は丸と相場が決まっている。しかし、わが家では毎年、西日本出身の家内が作る雑煮は薄味だが餅は四角い。東北生まれの筆者の実家から年末に届く餅を使っているからだ。家内に言わせると、もち米が違うからか、よく伸びておいしいので、市販の丸餅を買う気がしないのだとか。しかし、筆者の感想はちょっと違う。

 小さい頃、年末になると、木の臼で何回も餅をつき親戚に配るのが、家族総出の恒例行事だった。今、農業を継ぐ兄が送ってくれる餅は、もち米は同じでも機械でつくか市販のもの。子供時代に鍛えられた舌で比べると、質感が全然違うのだ。

 雑煮と一緒に、家内お手製のおせち料理が出た。その中に義母伝授の渋皮煮と鶏肉の甘辛煮があった。今年大学を卒業する娘に、「嫁に行く前にお母さんに作り方を教えてもらっておきなさい」と言うと、妻は「そんなの、ネットを見たら出ているから簡単よ」と素っ気ない。確かに、レシピ通りに料理すれば、標準的な味は出せるだろうが、母から娘へ伝授される家庭の味も捨て難い。今は亡き義母の料理は、味が少し濃かった。だから、妻はそれよりも少し薄味にしているのだそうだが、何でも味の濃い東北育ちの筆者には、義母の味付けは気にならなかった。

 「宮城のお母さんの野菜の煮物は、おいしかったね。あの味は出せないわ」と、合理思考の妻が言う。家で栽培した新鮮な食材を使ったのだから、味が悪いはずはないが、それでもあの味はネットのレシピでは出せない。筆者も「おふくろの味」を問われれば、「野菜の煮物」と答える。妻の舌も義母に鍛えられ、東北の煮物に、おふくろの味を感じるようになったのかもしれない。

 食品はスーパーで買い求める時代。外食も多くなっている。かつて味覚は母の手料理で鍛えられたが、それも難しくなっている。せめて正月料理くらいは、おふくろの味をつなげたい。(森)