【上昇気流】東京都写真美術館で開催中の「写真発祥地の原風景」展を見て
取材でカメラを使う機会が多かった。かつては白黒フィルムを使用し、暗室で現像のやり方を教わったこともあった。その後カラーフィルムとなったが、今はネガフィルムを用いないデジカメだ。
さらにはスマホも登場して、写真技術の変遷の速さ、激しさに驚くばかり。ところで東京都写真美術館で開催中の「写真発祥地の原風景」第2弾、「幕末明治のはこだて」展を見て、しばし感慨にふけった。
この展覧会は、長崎や横浜と並ぶ写真発祥の地としての「はこだて」に着目した企画。他の港湾都市と違って、ロシア人から技術が伝えられ、写真文化が花開いていったところだ。
幕末までは箱館、明治になって函館となり、両方を踏まえてひらがなを使用。驚いたのは、1860年代に描かれた「奥州箱館之図」と、70年代以降に撮影される「函館市街全景」の視点が共通していたこと。
よい構図で、函館山を背景に港町全体を見せてくれる。変化が連続して捉えられているのだ。そして何より興味深かったのが機材と技術だ。カメラは組立暗箱と呼ばれ、352㌢×387㌢×2043㌢と、実に大きい。
引き延ばしができなかったため、光学像はネガ原版の大きさだった。薬液処理をすぐ行う必要があり、暗室となるテントも持参。薬品や定着に必要なバットや水も担ぎ上げた。物理的な労力が大きく、ハイコストで、専門家にしか扱えなかったという。作品にはこの時代ならではの味がある。