【上昇気流】長野県大町市の駅前本通りに「三俣山荘図書室」がオープンした


大町市街が見える

 長野県大町市の駅前本通りに「三俣山荘図書室」がオープンした。カフェやミニシアターも兼ねて、市民や山の愛好家らがやって来ているという。山と人と町をつなぎ、登山口の町としての賑(にぎ)わいを取り戻したいという願いがある。

 かつてこの町は、黒部川源流の稜線にある三俣山荘への玄関口だった。だが湯俣川をさかのぼる伊藤新道が、1983年から崩壊で使えなくなり、東側から入るルートは不便になってしまった。

 現在使われているのは、湯俣から尾根に上がる竹村新道だが、ここを使うのは三俣山荘にやって来る登山者の2割にすぎない。単調な登路だからだろう。残りの8割は、富山県か岐阜県からだ。

 伊藤新道については時々話題になることがある。昨年12月28日、NHKBS1スペシャル「“黒部の山賊”北アルプス秘境の山小屋に生きる」でも紹介され、伊藤新道復活への取り組みも伝えられた。

 主役は三俣山荘の現在のオーナー、伊藤圭さんだ。とりわけ山荘の始まりが面白かった。戦時中のことで、小屋番はおらず、荒れ果て、持ち主も物故。その権利を買い取ったのが、圭さんの父、故伊藤正一さんだった。

 前科者の山賊が棲(す)み着いているという噂(うわさ)があった。正一さんが登山者を装って行ってみると、銃はあったが、恰幅(かっぷく)がよく、ひげも剃(そ)ってあり、猟の話も面白く、宿泊費もまけてくれた。ほかに2人いて、彼らは猟師だった。後にスタッフとして正一さんを支えるのだ。