【上昇気流】アインシュタインのメモ
物理学者アインシュタインが一般相対性理論について記した手書きのメモが、パリで競売商クリスティーズのオークションに出品され、1160万ユーロ(約15億円)で落札された。直筆の科学文書の落札額としては過去最高だという。
相対性理論は宇宙や時間、重力に関する人類の理解を大きく変えた。20世紀前半に物理学では、この相対論と量子論の二つの理論が生み出された。このうち量子論は多数の科学者が研究を積み重ね完成させたものだが、相対論はほぼアインシュタイン単独で編み出され、名声を高めた。
それから100年以上たつが、この両理論の融合により、われわれの身の回りにあるあらゆる物質の本質が明らかにされ、新技術の発明と相まって宇宙と極微世界のフロンティアは拡大、拡張を続けてきた。20世紀は「行け行けムード」の科学時代だった。
ところが近年、地球環境問題が発生。地球上のさまざまな生物や鉱物資源の持続可能な要件を追求する学問や産業に注目が集まってきた。
「理論の躍進と実験能力の行き詰まり(が同時に起こり、望むと望まぬとにかかわらず)ポスト・モダン物理学」(南部陽一郎著『クォーク』講談社)の時代に突入したとも言われる。
今回のオークションの結果を見ると、相変わらずのアインシュタイン人気だが、若い科学者世代の評価はどうだろう。時代の相が変わって、案外そっけないのかもしれない。じっくり聞いてみたい気がする。