【上昇気流】「長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)


認知症

 「長谷川式」といえば、医療現場では認知症の“物差し”として知られる。精神科医の長谷川和夫さんが開発したもので、正式名は「長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)。認知症の疑いがある時、これを使って診断する。試しにやってみますか。

 「お歳はいくつですか」(2年までの誤差は正解、1点)。「これから言う三つの言葉を言ってください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。桜、猫、電車」(言葉ごとに各1点)。「100から7を順番に引いてください」(93で1点、86で2点)。こんな質問が九つあり、満点は30点。20点以下は認知症とされる。

 病院で93歳の女性の診断に立ち会った。年齢の問いに「85歳です」との返事。計12点で「やや高度な認知症」に該当した。家族と同居なので、日常生活に支障はない。「認知症になって死ぬか、なる前に死ぬか。どっちかですから」と、医師は認知症との付き合い方を丁寧に話した。

 長寿社会では「誰もがなりえる病気」だから、「認知症になっても大丈夫な社会をつくろう」と長谷川さんは声を上げ続け、自ら認知症になったことも公表した。

 戦後のベビーブーム期に生まれた「団塊の世代」が来年から順次、75歳以上の後期高齢者になる。医療・介護の難問を抱える「2025年問題」は目前だ。

 先週、新聞に長谷川さんの訃報が載った。92年の人生を全うされ、天に召された。認知症対策のミッションを後世に託して。