軍のAI計画は「悪」ではない
米コラムニスト マーク・ティーセン
グーグルが離脱を表明
平和守る米国の優位性
グーグルは従業員からの圧力に屈し、「メイブン計画」からの離脱を表明した。メイブンは、人工知能(AI)を利用して、無人機からの映像をより分けたり、分析したりするために国防総省が進めている画期的な計画だ。メイブン計画への参加を取りやめ、「戦争のための技術を開発」しないと約束するよう求める書簡に従業員4000人が署名し、会社側に突き付けたことを受けた措置だ。グーグルは恥ずかしくないのか。
書簡は、国防総省と協力することは、グーグルの以前からの社是「邪悪になるな」に反し、「グーグルのブランドを修復不可能なほどに傷つける」と指摘している。米軍は邪悪だと言いたいのだろうか。グーグルのブランドが傷つくとすれば、グーグルの従業員は善良であり、遠く離れた戦場で真の悪と戦う兵士を支援することはできないと考えているとみられることだ。この兵士らのおかげで、グーグルの従業員らは、社内のナップポッドで安心して眠れ、無料でマッサージを受け、無料でギターレッスンを受けられているのではないのか。
メイブン計画への反対はばかげている。グーグルの技術によって無人機の攻撃の精度が上がることを恐れている。攻撃の精度が上がることのどこが間違っているのか。グーグルのAI技術が生かされて、兵士ら戦闘員と民間人を区別しやすくなれば、何の罪もない男女、子供が攻撃の巻き添えで殺害されることを防止できる。グーグルは、民間人の命を救いたくないのか。
◇AIに投資する中国
命を救うだけで十分でなければ、会社の利益についても考えてみたい。台湾はグーグルの研究・開発のアジア最大の拠点だ。
グーグルは昨年9月、11億㌦を投じて、同社のスマートフォン「ピクセル」を製造している台湾のHTC社を買収することを発表した。3月には、台湾のAI研究・開発への投資を発表した。国際的なハイテク企業によるものとしては台湾では最大規模だ。グーグルは、中国が台湾に侵攻し、情勢が激変するのを防止するのは誰だと考えているのだろう。米国の兵士らだ。東アジアは米国の安全保障の傘の下にあり、そのおかげでグーグルはこのような投資ができる。
グーグルはその恩恵を受けているのであり、従業員の仕事や生活が、米軍が守る平和と安全の基礎の上に成り立っていることを理解していない。
中国は現在、AIに大規模な投資をして、太平洋のパックスアメリカーナの基礎を破壊する軍事戦略を進めている。ダンフォード統合参謀本部議長は最近、中国は「2025年ごろまでにわが国の最大の脅威」になると証言した。アリババなどの中国のハイテク企業は、この戦略におとなしく従っている。グーグルのような米企業は、どちら側に付くのかを決めなければならない。
◇元CEOは高く評価
幸運にも、米国の企業は自由に活発に活動しており、グーグルが開けた穴を、ライバル企業がすぐに埋めることになる。トランプ大統領はアマゾン非難を続けているが、同社は、中央情報局(CIA)用の巨大なデータクラウドを運用している。それによって情報機関は極秘情報を共有できるようになっている。グーグルはまた、マイクロソフトなどのハイテク企業と共に、歴史上最大規模となる可能性のあるクラウドシステム「合同エンタープライズ防衛基盤(JEDI)」計画への参加を狙っている。アマゾンの創設者でCEO(最高経営責任者)のジェフリー・ベゾス氏は、ワシントン・ポスト紙のオーナーでもある。ニューヨーク・タイムズ紙は、グーグルは、この100億㌦の事業に参加するために「他のIT大手と競争するとみられている」と報じた。国防総省の高官らによると、JEDIの目的は、「軍の殺傷力と即応性」を高めることだ。「戦争ビジネス」に関わりたくないのなら、JEDIへの参加も見送られるべきだろう。
米軍が強いことが、平和を守る最善の方法だ。グーグルの元CEO、エリック・シュミット氏はこれが分かっている。だからこそ、軍の技術革新の促進についてマティス国防長官に助言する「防衛革新委員会」の委員長を務めている。シュミット氏は最近の議会証言で、メイブン計画を高く評価し、AIの開発で民間と「密接に協力」し、「米軍の優位性を守る」よう訴えた。その上で、それができなければ、「将来の戦場での優位性は間違いなく失われる」と警告した。
シュミット氏は愛国者であり、兵士らは「邪悪」でなく、軍を支援することがグーグルの社是と矛盾しないことを知っている。同氏の古巣であるグーグルは、その反対に向かっている。グーグルは最近、社是「邪悪になるな」を変更した。残念なことに、「悪と戦うな」とはならなかったようだ。
(6月6日)






