一般教書演説への支持生かせず
米コラムニスト マーク・ティーセン
ロシア疑惑に関心が集中
喜ぶ民主党とマスコミ
トランプ大統領は先週、一般教書演説を行った。視聴者のうち、民主党員の43%を含む75%が演説に好意的な反応を示した。大統領は通常、一般教書演説が成功すれば、精いっぱいその余勢を駆ろうとするものだ。
だが、トランプ氏は違った。この1週間、話し合われてきたのは、ロシア問題だった。
演説から数日でトランプ氏は、話題を変え、下院情報特別委員会の共和党員が作成した機密メモの公表に踏み切った。連邦捜査局(FBI)が外国情報監視法(FISA)に基づく手続きを乱用したことを示すメモだ。マスコミと民主党としては、信じられないような幸運だ。演説を取り上げるのをやめ、このメモに一斉に注目する道を選んだ。あっという間に、トランプ氏の力強い演説と政策課題は遠い過去のものになり、共和党がFBIに「党派的な」攻撃を行ったこと、トランプ氏がモラー特別検察官を解任するかどうかが注目されるようになった。
◇機密メモ公表裏目
トランプ氏は何を考えているのだろう。共和党のメモで自らの「疑念は完全に晴れた」とツイートした。だがそれは間違いだ。メモの根拠となった情報を検証した唯一の同委委員であるガウディ下院議員(共和、サウスカロライナ州)ですら、メモはロシア疑惑の捜査とは無関係だと言っている。
メモは、FBIが、大統領選中のトランプ陣営下級アドバイザーを監視するためのFISAに基づく捜査令状を取得するために、民主党が資金提供して作成された文書を利用したことを示しており、これは違法行為である可能性がある。これが事実なら、事態は深刻だ。しかし、共謀がなかったことの証拠にはならない。
ならどうしてトランプ氏は、一般教書演説の直後にメモを公表し、演説で獲得した勢いを手放したのか。もっとよく考えるべきだ。2017年のことを思い出してみたい。
トランプ氏が連邦議会で最初の演説をし、高く評価を受けた後、関心の的は一日もたたずにロシアに移った。ワシントン・ポスト紙が、セッションズ司法長官が指名承認公聴会で、ロシアの駐米大使に2度会ったことを明らかにすることを怠ったと報じたためだ。トランプ氏の勢いを削(そ)ぐために、絶妙のタイミングで情報がリークされた。
セッションズ氏への攻撃は悪意のあるものだったが、トランプ氏のせいではない。しかし今回は意図的に、話題を演説からロシアへと変えた。これは自殺行為だ。
この大失敗に加えてトランプ氏は、税制改革の成果を強調する場とすべき集会で、民主党が一般教書演説で立って拍手しなかったのは「非アメリカ的」で「反逆」だと訴えた。もちろんトランプ氏は冗談で言ったのだが、悪い冗談だ。マスコミに怒りをあおる口実を与えた。民主党員は本心では喜んでいる。それまで民主党は、下院で不遜な態度を取ったと非難されていた。大統領の演説を見ていた何百万人もの人々を無視したと非難されていた。ポスト紙の同僚ダナ・ミルバンク氏はリベラルだが、そのミルバンク氏でさえ、民主党の行動は「恥ずかしい」と言っていた。トランプ氏の配慮のないたった一言で、民主党議員らは、短気で何にでも反対する輩から、言論の自由などをうたった憲法修正第一条のまっとうな擁護者となった。
◇政策アピールせず
これは大変なミスだ。トランプ氏の演説は、多くの国民に届き、支持された。最初の1年の実績を評価しながらも、トランプ氏が嫌いな無党派層や民主党員らも多くが支持した。この演説で、トランプ氏への見方を改めさせることができたはずだ。
その後数日間は、演説のたびに、一般教書演説で披露した政策について細かく説明し、メッセージを伝え、支持を増やすべきだった。幼少期に親と共に不法入国した180万人の「ドリーマー」に市民権への道を開く寛大な移民政策について演説し、交渉のテーブルに着こうとしない民主党に対抗することができたはずだ。
教育、オピオイド危機への取り組み、死に瀕(ひん)した国民が治験薬を試すことを認める「試す権利」法を演説でアピールすることができたはずだ。無党派を取り込み、一部の民主党員すらも取り込み、支持基盤を拡大できたはずだ。だがトランプ氏は、話題をロシアへと変え、「反逆」だとつまらない冗談を言い、何百万人もの人々に、またかと思わせた。
トランプ政権は漫画の「ピーナッツ」のようだ。トランプ氏はフットボールを支えるルーシーだ。誰もが今度こそ大丈夫と思っても、ルーシーは毎回、ボールを引っ込める。今度こそしっかり政策を伝えてくれる、今度こそ自制してくれる、今度こそ大統領であることがいかに偉大なことであるかを自覚してくれると思っても、毎回、裏切られる。
(2月9日)