レトリックの名人オバマ氏

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

現実の政治には無関心

政府の機能不全に気付かず

 オバマ大統領は、オバマケア(オバマ大統領の医療保険改革)が悲惨なスタートを切ったことについてニュース番組司会者クリス・マシューズ氏に説明する際に、「米国の大規模な省庁は、一部は時代遅れ、一部は適切に作られていない」ことが分かったと語った。

 興味深い発見だ。オバマ氏は、米経済の6分の1を占める巨大な医療業界を、厚生省と内国歳入庁(IRS)の思いやりのある官僚らの手のなすがままにしたばかりだからだ。

 ほとんどの人は、政府が硬直化し、どうしようもないほどに非効率であることを知っている。同氏の政治哲学すべてが、「大きな政府」を基礎とし、さらに政府は集団行動の原動力そのものであり、偉大な国家の究極的な源という固い信念の上に築かれていることを考えれば、オバマ氏の発見は注目すべきだ。個人の場合は、仕事があるのに誰も実行しなければ、ほかの誰かが実行するが、国の場合はそうはいかない。

 この数週間で、官僚主義的な政府が救いようのないほどに無能であることが明らかになった。オバマ氏は「保険を買うということがどれほど大変なことかが分かってきた」と告白したばかりだ。いいと思ったアイデアがうまくいっていない。オンライン「保険市場」で何百万人もの国民に新しい医療保険を強制的に買わせる法律を成立させておいて、3年たってこのざまだ。保険市場サイトは、テスト運用をしておらず、不安定で、信頼性もない。

 オバマ氏は過去にも「発見」をし、しぶしぶ間違いを認めたことがある。弱った経済を復活させるには、すぐに取り掛かれる雇用を数多く創出することが必要だと主張し、8億3000万㌦という巨額の景気刺激策を通過させた後のことだ。誰もが知っているように、これはまったくの夢物語だった。

 オバマ氏は、政府の最も根幹となる部分が機能しているかどうかを見極めるまでに時間がかかる。自身の政府なのに、問題が続けて発生するようになってようやく、気が付かなかったと告白する。例えば、IRSの不公平な税務審査、AP通信の電話傍受記録の入手、国家安全保障局(NSA)のメルケル独首相の盗聴について何も知らなかったと主張している。最大の目玉政策であるオバマケアの核心である「保険市場」サイトが、3年もかけて作ったにもかかわらず、スタートと同時に完全に失敗するなど、全く考えもしていなかった。おまけに、オバマケアのせいで、数百万人が、個人で加入していた医療保険を失ってしまった。

 連邦政府のトップである大統領が、連邦政府の機能不全に驚き、失望を表明するなどあり得ない。動かないサイト、IRSの不正、APへの侵入などさまざまな不祥事に対し、まるで傍観者のように距離を置き、無関係を装いながら、自分こそが一番驚いているという態度をこれまで何度も取ってきた。執務室でデスクに向かっているのは、ホワイトハウスの西棟ツアーに来た人々に、合衆国大統領というイメージを与えるためだけのポーズなのか。

 オバマ大統領は、この数十年間で誰よりも消極的な傍観者でありながら、同時にイデオロギー的には誰よりも野心的な大統領という相いれない側面を持っている。医療保険は、その規模と範囲だけでもかつてないほど大きい。環境に優しい新しい経済を、独断で、一から作ろうとして何十億㌦もの税金を費やした。キャップ・アンド・トレード(温室効果ガスの排出量取引)法案が成功していれば、エネルギー経済を監督する権限を手に入れることができた。全国民へのプリスクール(就学前)教育の提供を望み、貧困のように、常に存在する経済的不公平の解消に断固取り組むと約束した。

 政府の官僚機構がうまく機能していないことをオバマ氏が知らなかったのは、改革への野心を持ちながら、実際の業務には無関心だったからだ。この両者の間に大きな溝があるからだ。オバマ氏の優れたビジョンと、現実の統治への無関心、職場放棄ともいえる消極的な姿勢は普通なら共存できない。

 そのギャップを埋めているのがレトリックだ。オバマ氏は、レトリックの名人だ。レトリックによって大衆を動かし、支持を得、燦然(さんぜん)と輝く勝利を2度も獲得した。レトリックが現実を変えた。オバマ氏は、レトリックで国家を変えた。結局、希望と変革はレトリックの道具であり、オバマ氏が思い描けば、山も動くということだ。

 オバマケアのサイトが離陸直後に墜落したにもかかわらず、オバマ氏の対応が功を奏したのはそのためだ。救済策を講じるのでなく、選挙運動のような全米演説ツアーをした。レトリックで現実を覆せると考えているかのようだ。

 管理、監督、交渉、説得、法律作り、譲歩、これら統治に必要なものに対してオバマ氏は、能力もなければ、関心も示さない。バレリー・ジャレット氏が指摘したように、飽きっぽくて、その優れた能力を、日常のありふれたことに投入できないのかもしれない。

 オバマ氏はサイトの失敗を受けて「プログラムを作るのは私ではない」と言った。そんなことは誰も期待していない。政府を監督し、機能するプログラムを作らせてほしい、それだけだ。