波紋呼ぶ「性的」中傷ツイート

米コラムニスト キャサリン・パーカー

トランプ氏、辞任要求に反撃
女性議員がセクハラ疑惑非難

キャサリン・パーカー

 「地獄の特別な場所」は、このところ話題に上ることが多く、ひどく込み合っている。

 始まりは2016年、オルブライト元国務長官が「地獄には助け合わない女性のための特別な場所がある」とジョークを飛ばしたときだ。ニューハンプシャー州での選挙集会でヒラリー・クリントン氏を紹介したときの言葉だ。

 その後、イバンカ・トランプ氏が、地獄の特別な場所は「子供を食い物にする人」のためにあると訴えた。イバンカ氏が言っているのは、アラバマ州上院補選の候補者だったロイ・ムーア氏のことだ。ムーア氏は、30代初めの頃に10代の少女を性的に誘惑したり、デートに誘ったりしていたと言われている。

 次はトランプ大統領の元顧問で現在はフリーで活動するスティーブ・バノン氏だ。ムーア氏支持集会で、地獄の特別な場所は、補選で元判事のムーア氏を支持しない、「よく分かっていない」共和党員のためにあると主張した。イバンカ氏をあてこすった発言のようだ。

 びっくりしたのは私だけだろうか。

 バノン氏は、アラバマ州出身のコンドリーザ・ライス氏を名指しで非難した。ライス氏も元国務長官だ。ライス氏は補選について、「非常に重要な時であり、力を合わせて、偏狭な考え、女性への性差別、不寛容を拒否すべきときだ」と書いた。名指しは避けながら、「りんとした、礼儀正しい、私たちが大切にしてきた価値観を尊重する」指導者を探すよう有権者に呼び掛けた。

◇女性司会者が反発

 この言葉に従えば、現職や公職に就こうとしている人々の多くが不適格となりそうだが、ムーア氏に向けられた言葉であることは明らかだ。ムーア氏は、最後の17の憲法修正条項が採択される前の米国は今よりずっとよかった、特に、女性とアフリカ系米国人に選挙権が与えられる前はよかったと言った人物だ。

 バノン氏がライス氏に強い調子で抗議し、アラバマ州民が投票する一方で、トランプ氏は、これまでのさらに上を行くツイートを投稿した。女性上院議員を性的にあてこすって侮辱したのだ。トランプ氏は、民主党のキルステン・ジルブランド上院議員が、複数のセクハラの訴えが出ているとして辞職を要求したことがよほど腹に据えかねたとみえ、ジルブランド氏は献金を「ねだり」に以前来ていたが、献金のためなら「何でもする」だろうとツイートした。

 悪意があれば別だが、誰かに解釈してもらわなくてもその意味は分かるはずだ。ジルブランド氏なら、現金のために性的なサービスを提供するだろうという意味だ。これが私たちの目下の重大な関心事だ。

 このツイートは選挙で沸いていたアラバマ州でも話題になり、少なくともワシントンからニューヨークにかけての地域でも、この重大な関心事が取り上げられた。MSNBCの番組「モーニング・ジョー」で女性ゲストが、このツイートで「はらわたが煮えくり返る思いだった」と話し、女性共同司会のミカ・ブレジンスキー氏はカメラに向かって指をさしながら、イバンカ氏やホワイトハウスの女性を叱責した。

 それは、娘であるイバンカ氏を含め、トランプ氏を支持し続ける女性に向けられたブレジンスキー版の地獄の特別な場所だ。

◇大統領へ復讐決心

 しかし、ずっとこうだったわけではない。大統領選の選挙戦中、ブレジンスキー氏と、フィアンセのジョー・スカバラ氏は、自身の番組でトランプ氏に好きなようにしゃべらせていた。そのせいで「モーニング・トランプ」だと言われることもあった。この数カ月間は、トランプ氏に放送時間を与えて当選に手を貸したことへの後悔からだろうか、2人はトランプ氏にとってモーニング・ナイトメア(悪夢)となっている。

 トランプ氏が、ブレジンスキー氏を名指しで侮辱したことも、同氏をフェミニストとしてトランプ氏への復讐に駆り立てているのだろう。12日、カメラを真っすぐ見詰めながら、カメラマンを凝視し、サンダース大統領報道官を説得した。

 ブレジンスキー氏は、その場にはおらず、聞いているかどうかも分からないサンダース氏に「きょうはあなたの(大統領を支援するのをやめる)日だ。止めなければならない。正しいことをしなさい」と訴えた。ブレジンスキー氏の前では、トランプ氏は、笑いながら女の子を泣かせて喜ぶいじめっ子のようだ。

 この時のブレジンスキー氏は、ベトナム戦争での米国の失敗を「泥沼」と訴えたニュースキャスター、ウォルター・クロンカイト氏とは違う。ジャーナリストとしての常識から離れ、トランプ氏を引きずり降ろすことを自身の使命だと心に決めていたことは確かだ。ブレジンスキー氏の語調が強まっていく一方で、男性ゲストらは平静を装い、スカバラ氏は、ママの機嫌をうかがおうとする子供のようだった。

 トランプ氏がこのような反応を望んで、異様な行動を取ったのかどうかは分からないが、何カ月も選挙に強い関心を持ってきたアラバマ州民にとっては、気晴らしになったことだろう。メディアの関心も非常に高かった。派手な選挙戦だったからばかりでなく、重要な選挙でもあったからだ。アラバマ州はこれから後退するのか、前進するのか。

 難しい選択ではないはずだが、アラバマ州民はチーム・バノン、トランプ氏、ムーア氏のおかげで、何が真実で、何がうそなのかが分からなくなっている。この人たちのための地獄の特別な場所も確かにある。

(12月13日)