クリントン夫妻に露から資金

新START交渉に影響か

ビル・ガーツ

 カナダのウラン採掘企業ウラニウム・ワンをめぐる疑惑が深まる中、米国の安全保障当局者らは、ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)が、ロシア政府の機嫌を損ねたくなかったオバマ前政権だけでなく、ロシアからの賄賂の影響をも受けていたのではないかとして、調査を求めている。

 オバマ政権は2010年、米財務省の対米外国投資委員会(CFIUS)を通じて、ウラニウム・ワンの株式の51%をロシアの国営原子力企業ロスアトムのウラン採掘部門JSCアトムレドメトゾロト(ARMZ)に売却することを承認した。

 この買収によってロシアは米国のウラン抽出能力の約20%を手に入れるようになった。

 この買収交渉の前後に、ウラニウム・ワンのロビイストがビル、ヒラリー・クリントン夫妻が運営する慈善団体「クリントン財団」に1億4500万ドルを支払っていたことが15年に明らかになった。ビル・クリントン氏はそのほかにも、モスクワで行った講演でロシア政府系銀行から50万ドルの報酬を受け取っていた。

 ウラニウム・ワンの問題は先月、改めて表面化した。

 ロシアがヒラリー国務長官(当時)に違法な働きかけをしようとしていたことについて、連邦捜査局(FBI)が情報を隠蔽(いんぺい)していた可能性があると報じられたためだ。

 この件は、クリントン氏らオバマ前政権の高官が承認したもので、FBIの捜査によって、事件に関与したロシア人ロビイストが起訴され、贈収賄で有罪となった。

 この事件が明るみになって以降、連邦議会はウラニウム・ワンの問題に関心を示し、オバマ政権によるロシアに対する融和的政策と新STARTの間に何らかの関係があったのかなどをめぐって調査を進めている。

 トランプ大統領は2月、ロシアのプーチン大統領に新STARTはオバマ政権が交わした悪い合意の一つだと語っている。

 米安全保障高官は記者(ビル・ガーツ)に、ウラニウム・ワンの件は検証手続きが不十分な新STARTによって米国の安全が損なわれた可能性など、大スキャンダルの一部にすぎないと指摘した。

 この高官は「プーチン氏にとっては大変な価値がある。数十億ドル相当のウランが手に入り、欠陥のある新STARTによってオバマ政権への影響力も強まるからだ。ロシア人が米国の兵器を削減する一方で、ロシアはオバマ政権が核兵器に1セントも投じないことを十分に知った上で兵器近代化の時間を稼いだ」と主張した。

 クリントン氏は国務長官として、10年12月のレイムダック議会で新STARTの批准を強く求めた。11月には、米露関係の「リセット」には「欠かせない」と訴えていた。

 ウラニウム・ワンによって、ロシアはウラン濃縮市場への支配を固め、低濃縮ウラン原子炉を使う国々への影響力は強まる。

 国防総省の元核兵器専門家のマーク・シュナイダー氏は、「ロシアは巨額の賄賂で国務長官を買収した。50万ドルの講演料と、個人の貯金箱にすぎないクリントン財団への1億4500万ドルの寄付。議会の民主党指導部は気にかけていない。罰を受けなければ、今後も続く」と指摘した。