トランプ大統領の選対議長ら起訴は氷山の一角
米コラムニスト キャサリン・パーカー
鍵はパパドポロス被告か
前大統領補佐官の名前も浮上
低いランクのボランティアに気をつけろ。
連邦捜査局(FBI)がトランプ大統領の選挙スタッフ2人を起訴した10月30日、これまで聞いたことがなかった名前が出てきた。ジョージ・パパドポロス被告は2016年大統領選でのトランプ陣営とロシアとの共謀のキーマンなのか、はたまた、トランプ氏が31日にツイートしたようにうそつきの「低いランクのボランティア」なのか。
トランプ氏は見下したように、聞いたこともない名前だど肩をすくめたが、パパドポロス被告は陣営内では、トランプ氏の外交顧問として知られていた。顧問として、トランプ陣営と、ロシア政府に近いロシア人との間の会合をセッティングしようとして、失敗した。ヒラリー・クリントン氏に不利な情報を得るためであったことは明らかだ。
モラー特別検察官の捜査の鍵となる可能性がある。捜査によって、元選対本部議長のポール・マナフォートとビジネスパートナーのリック・ゲーツの両被告は、マネーロンダリング(資金洗浄)や税法違反などの罪で起訴された。パパドポロス被告は、捜査の初期段階でFBIにうそをついていた罪について、起訴前に司法取引を提示されていた。
起訴を受けてトランプ氏は、事件を矮小化するために、あらゆる手を尽くした。していないことがあるとすれば、クリントン氏の人形を燃やすことくらいだ。この泥沼の中にいるのが、ワニなのか、ただの影なのかは誰にも分らない。しかし、トランプ氏の過去の言動から分かるのは、トランプ氏が攻撃を受けると、クリントン氏はそれを察知するということ。クリスマス・キャロルの「過去の幽霊」のように、クリントン氏はトランプ氏に取りついている。
◇国家に対する犯罪
トランプ氏は30日にこのニュースが流れるとすぐ「しかし、ひねくれ者のヒラリーと民主党員はどうして焦点にならないのか」とツイートした。
実際に連邦議会では共和党議員らが起訴を知ると、そのニュースから注意をそらそうと、小さなネズミでも走り回るように瞬く間に動き始め、オバマ政権時に行われたカナダ企業ウラニウム・ワンのロシア国営エネルギー企業子会社への売却について調査を開始した。ウラニウム・ワンは米国のウラン採掘の許可を受けている。売却には、クリントン氏が当時長官を務めていた国務省など複数の米政府機関の代表らからなる委員会が、承認する必要があった。クリントン基金がウラニウム・ワンの投資家らから1億4500万ドルの寄付受け取った後、売却は承認された。
グラフ用紙と鉛筆を用意した方がよさそうだ。ロシアのプロパガンダ/共謀の疑い/汚職/不正/うそ/追加のうそが互いに重なり合うベン図を描くには必要だ。パパドポロス被告にはこの数カ月間、盗聴器がつけられていた可能性があるが、今のところまだ、音声も動画も公開されていない。
消しゴムも手元に準備しておきたい。人はうそをつくものだ。解任される人も出るだろう。恩赦もあり得る。しかし、トランプ氏がマナフォート被告、ゲーツ被告を恩赦するのではないかという観測は見当違いだ。両被告の容疑は、ほぼ間違いなく国家に対する犯罪となるからだ。州検事総長らは、モラー氏の捜査を基に立件し、トランプ氏の権限を無力化できる。大統領が恩赦できるのは連邦犯罪だけだからだ。
◇共謀の証拠はなし
今の時点での疑問点は、次に何が起きるのかだ。マナフォート被告、ゲーツ被告はそれぞれ懲役80年、70年になる可能性があり、刑を軽減するための取引で、さらに大物を突き出す可能性もある。フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の名前も浮上している。
トランプ陣営がロシアと共謀して選挙に影響を及ぼそうとしたことを証明するものはなく、裏付けとなるものもない。その上、マナフォート被告関連の取引の多くは、トランプ陣営に加わる前のことだ。確かなことは、ソーシャルメディアの幹部らが10月31日に行った驚くべき証言で明らかになったように、ロシアが選挙に影響力を及ぼしたことだけだ。
ツイッターは、選挙に関係するコンテンツを投稿したロシア関連のアカウントが3万6746あることを確認、グーグルは、ロシア発とみられる約1100本の動画で43時間の選挙関連のコンテンツを発見した。フェイスブックは、約1億2600万人が選挙前にロシアの作り話に触れていたとみている。
トランプ氏がこれらの仮想侵略から利益を得ていた場合、知らなかったと言ってもその証拠はない。今見えているのは氷山の一角にすぎないのだろう。この泥沼の住人らの前に、この巨大な氷山を見せなければならない。ここで一つ思い出してほしいことがある。シカゴのマフィアのボス、アル・カポネが失脚したのは、殺されたり、脅されたからではなく、脱税が原因だった。
(11月1日)






