分断とリスク好むトランプ氏
米コラムニスト デービッド・イグナチウス
アジア歴訪に備える各国
政策判断のため特徴把握
トランプ大統領は来月、アジアを訪問する。特に重要な外遊だ。外国の情報機関は、この型破りで、リスクをいとわない、支配的な大統領について、来月会談する自国の首脳らに説明するため、トランプ氏の性格の特徴を把握しようとしているところだ。
トランプ氏はどのように描かれることになるのだろう。新聞の解説記事のような誇張表現は使わないだろう。
外国政府は、記者ほど簡単に驚いたり、不機嫌になったりしない。独裁者をあしらうことには慣れている。トランプ氏の、止むことのない綱渡りのような行動を見て、驚いたことは何度もあっただろう。しかし、政府としてすべきことは、政策判断であり、価値判断ではない。
トランプ大統領が就任して9カ月がたつ。外国のアナリストらがトランプ氏について報告する際、大統領を評価するに当たって理解しておくべき基本的な要因がある。まず、自分たちは米国人ではないこと、トランプ氏に大統領としての資質があるか、憲法に抵触していないかを評価する必要はないことだ。トランプ氏が選出されたという現実、残された任期は恐らく3年以上あり、外国政府がトランプ氏を読み誤ってもそれは自己責任であるという事実を受け入れねばならない。
◇リスクに強い耐性
情報通の外国人アナリストらは、トランプ氏をどのように評価すべきか、いくつか指摘しておきたい。
トランプ氏は、混乱させることが好きだ。これは偶然でも、スタッフが無能だからでも、ツイートがやめられないからでもない。混乱が好きで、人を侮辱するのが好きなのだ。そうすることで敵対者が意表を突かれ、交渉の余地が生まれると考えている。13日にワシントン・ポスト紙に掲載されたダン・ボルツ氏の記事「混乱で支配し、全回路を過負荷にするトランプ氏」がよく捉えている。ボルツ氏は、イラン核合意の順守を認めず、オバマケアへの資金供給を停止したことを「破壊的」と指摘した。
普通の基準から見れば、肯定的な記事とはいえない。しかし、政権内部からの情報によると、政権はこの記事を喜んでいるという。これは、まさにトランプ氏が打ち出したいイメージだからだ。「まったく無傷」のティラーソン国務長官はCBSの「フェース・ザ・ネーション」で、トランプ氏の侮辱的なツイートを「行動に追い込むための手段」と呼んだ。
トランプ氏はリスクに対して強い耐性を備えている。とりわけ、協力相手がいると強くなる。これは核をめぐる危機についてもいえる。
政権内部からの情報によると、トランプ氏は「勝ちたければ、失う用意が必要だ」と考えているという。瀬戸際政策によるリスクは分かっているが、そこから生じる新たな力が好きなのだ。周辺が、崖っぷちに近づき過ぎだと懸念すると、トランプ氏は、それは恐怖にとらわれているからだと考える。目標に近づいていることが分かっていないからだとトランプ氏は考える。
トランプ氏は核兵器に関して、他の大統領とは違う考え方を持っている。歴代大統領は核戦争の危険性を恐れてきたが、政権内部からの情報によるとトランプ氏はその恐れのために「勝てない状況に自らを追い込んできた」と考える。トランプ氏のリスク志向は、3人の将官らに抑えられているようだ。3人はトランプ氏に助言し、戦争について精通している。だが、ボタンを押すのはトランプ氏だ。
◇優先的な対中関係
トランプ氏は、いつも賭けに出ているわけではない。何度か破産を経験した結果、自ら資金を投入するよりも、自身の名前でフランチャイズ展開するようになった。トランプ氏を知る上で、ゴルフも重要だ。手の込んだごまかしで、ボールをカーブさせて、木を回避するのだろうか。それとも、安全策を取って、レイアップするのか。
最近、トランプ氏とコースを回っているグラハム上院議員(共和、サウスカロライナ州)は、状況次第だと語った。トランプ氏は一対一でプレイするときは、非常に用心深く、相手にミスを犯させ、自滅させる。しかし、マッチプレーのようにパートナーがいる場合は、まずいショットも大目に見る余裕が出る。中国に警告しておくと、トランプ氏は北朝鮮問題はマッチプレーだと考えている。
トランプ氏はすべてを私的に捉える。おだてられるのが好きなうぬぼれ屋だ。
トランプ氏と最も関係が良好なのはサウジアラビア、中国、日本だ。この3カ国とは、個人的な信頼関係が築かれている。これは、ジャレド・クシュナー氏が築いたもので、同氏は今も、外交でトランプ氏の個人的な特使としての役割を果たしている。
対中関係はトランプ氏にとって特に重要だ。中国に対し厳しい発言が目立つが、習近平国家主席とは気質が似ていると思っている。「大したやつ」、ポピュリストであり独裁者、ライバルをかく乱させるリスクテーカーだ。
重要なのは、トランプ氏が成功を切望し、称賛されることを強く欲していることだ。アジアのホスト国は、貿易でどんな土産を持たせられるかを考えている。貿易赤字を削減し、市場を開放させたとしてトランプ氏が自慢できるものだ。
米国人として私は、トランプ氏の大統領としての手法は、分断を生み、危険をはらんでいると思っている。しかし、外国政府はそのような心配をする必要はない。重要なのは、トランプ氏を理解し、自国の利益をどれだけ受け入れさせるかだ。
(10月18日)