民主党に擦り寄るトランプ氏
米コラムニスト キャサリン・パーカー
選挙公約は見せかけ
生き残るオバマ氏の「遺産」
これほど多くの大統領選の勝者と敗者がここまで饒舌(じょうぜつ)になったことはほとんどない。
ヒラリー・クリントン氏は、-念のために言っておくと2016年の大統領選に敗北した-選挙戦を振り返った新著「ワット・ハップンド(何が起きたのか)」のプロモーションツアー中だ。
ドナルド・トランプ氏は、-大統領選に勝ったが、いまだに選挙戦を戦っている-実績を出そうと民主党に擦り寄っている。何でもいいらしい。不法移民についてこれまで当たり前のことを言っていたが、それを撤回し、子供の時に親とともに米国に来た「ドリーマー」を出生地に送り返すという公約が揺らぎ始めている。
バラク・オバマ氏は、任期を終えたが、大統領気分が抜けきらず、まだ口を挟んでくる。
バーニー・サンダース上院議員は、民主党の大統領候補指名争いでクリントン氏に敗れたが、いまだに選挙運動をし、全国民にメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険)を拡大すると叫んでいる。単一支払者医療保険制度については、サンダース氏が勝者になることもあり得る。サンダース氏が最終的に勝者となるのか。民主党にも勝算が出始めている。
敗者は共和党だ。できもしない公約を掲げ、大量のツイートを投稿することしかできず、重要なスタッフを何人も入れ替えた候補者を信じ選挙で勝利した。共和党員としてのトランプ氏の信頼性には常に疑問があった。しかし、国民はどんなことでも信じてしまいやすい。何千年も続くいけにえの儀式やヘビ踊りなどがその証左だ。セールスマンとしてのトランプ氏は、これまでの成功を通じて、このことを常に、直感的に分かっている。
◇民主党幹部と会見
トランプ氏のような人物について知っておくべき二つの点がある。一つは、楽しむことを知っている。もう一つは、脅しが成功すると、やめられなくなってしまうこと。
トランプ氏は、国民が自身のうわべだけの熱意を受け入れてくれることが分かり、やめられなくなった。トランプ氏が何をしても、何を言っても、信じている人からは何も見えない。
トランプ氏にイデオロギーはない。だが、身の回りにいるのはイデオロギー信奉者らだ。この身の回りのイデオロギー信奉者こそが最大の被害者なのかもしれない。
このような見方がとうとう表面化し始めた。トランプ氏が最近、敵対する民主党の下院院内総務ナンシー・ペロシ氏、上院院内総務チャック・シューマー氏と会見したためだ。何十万人もの若い不法移民への今後の対応と、トランプ氏の「徹底したセキュリティー」との間でどう折り合いを付けるかについて話し合った。
すぐに保守系ニュースサイトのブライトバートがトランプ氏を非難し、「恩赦のドン」と揶揄(やゆ)した。大統領上級顧問で、トランプ氏の個人的「プラウダ」だったスティーブ・バノン氏があっという間に敵に回った。共和党員らも、支持基盤への配慮からだろうが、トランプ大統領への失望を表明した。
トランプ氏は内心では、何かしなければと心に決めているのかもしれない。さもなければ、自身の意思とは無関係に米国に連れてこられて、米国で育てられた子供は、米国滞在を認められるべきだと米国民の多くが考えていることが世論調査で明らかになったからなのかもしれない。
◇進まない壁の建設
国境の壁建設はあまり進んでいないようだ。しかし、明確になってきていることもある。クリントン氏が、敗北の原因を説明してわだかまりを解消しようとしている一方で、トランプ氏は民主党にとって利益になることにいそしんでいる。クリントン氏が選挙に勝っていても、共和党が多数派の議会の下で、ここまで民主党に貢献することはなかっただろう。
移民改革は、古代アテネの非情な執政官ドラコンの衣を脱ぎ、ローマ法王のように慈悲深い改革になろうとしている。カトリック教徒のバノン氏は最近、CBSテレビの「60ミニッツ」で、教会は移民問題への対応に不快感を持ち、壁建設を支援せず、移民への許しを求めているが、それは信徒を増やすには不法移民が必要だからだと毒づいた。
メキシコ国境の壁の建設も実現しそうにない。壁のような構造物の修理は進行中だ。医療保険も似たようなものだ。オバマケアの撤廃・代替ではなく、修正にとどまり、単一支払者制度がそれに続くことになりそうだ。これは、民主党が支持し、トランプ氏が「共和党員」になる前に支持していた制度だ。
そうなれば、民主党は選挙に勝ったも同然だ。トランプ氏の数々の選挙公約は見せかけに過ぎず、トランプ氏は結局、非常に優秀な民主党員ということになる。これまでの見事な実績に、おめでとう、大統領閣下と言いたい。オバマ前大統領にもおめでとうと言わなければならない。主要なレガシー(遺産)が生き残るのだから。サンダース上院議員にもおめでとうと言いたい。もうすぐ、あなたの時代が来る。
一番、祝福してあげたいのは、ミセス国務長官、クリントン氏だ。あなたの勝利も、あなたの敗因も、皆が知っている。決めぜりふを吐き、髪も切り、世界一ひどい仕事を引き受ける必要もなくなった。悪くないと思う。
(9月17日)






