拉致問題にも重大な時、河野外相はバッジ着用を
河野新外相の評判は悪くない。8月上旬、マニラの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議の折、居丈高な王毅・中国外相に毅然(きぜん)と対応したことなどは、◎だろう。だが、一つ注文させていただきたい。
北朝鮮の「水爆」実験で、米朝チキンレースは、最終コーナーを回りつつある。金正恩委員長は、核とミサイル実験に夢中だが、いつトランプ虎の尾を踏むか、かすめるか。
そんな緊張の中、「日本人拉致問題の解決が更に遠のく」と懸念する声も多い。しかし、西岡力・拉致被害者を救う会会長らは、解決の好機到来の可能性があると分析する。2002年、金正日総書記が日本人拉致を認める譲歩をした。それは、当時のブッシュ米政権が、対米合意に反し核開発を続けた北朝鮮に激怒し、軍事攻撃も辞さない強硬姿勢を示した時であり、その攻撃圧力を日本という“中和剤”を用いてかわすためだった。
今また、トランプ米政権が軍事攻撃まで選択肢に入れた。独裁者は真に自分の生命の危険を感じ、または自分の統治資金が底を突く時、初めて中身のある協議に応じ、“中和剤”にも頼ろうとし、02年型の可能性が生じる、という分析だ。とにかく、拉致問題にも重大な時である。
安倍首相は内外に「拉致問題は日本の最重要課題」と言い続けてきた。
トランプ大統領から、対北朝鮮で「100%日本と共にある」との言質を得ている。
チキンレースのトンネルの出口に、拉致被害者救出もぜひ置いてほしい。ただ、大統領の気の変わりやすさが気になる。
ゴールポストを、対北では前へ前へ動かしたかった文・韓国政権も、当面さすがにそれは難しくなった。だが、同政権から、拉致問題で共感を得るのは難しい。文大統領は6月の米韓首脳会談で、北朝鮮による米韓両国民拘束に言及したが、日本人拉致被害者のことはスルーした。
だから、日本は拉致問題にかける強い意思を、絶えず明示する必要がある。北朝鮮にはもちろん、米国、韓国、中露、国際社会全体にも。明示手段の一つが、拉致被害者救出運動のシンボル、ブルーリボンバッジだ。それは、北の核や全ての無法を許さない積極意思表示でもある。
安倍首相は、いつも着用している。だが、マニラ会議、8月中旬のワシントンの日米外交防衛閣僚会議(2+2)などでの河野外相の映像を見て、驚いた。胸にバッジがない。
マニラには北朝鮮の李外相も来て、河野外相も会った。日米韓の会議も開かれた。そんな重要な機会に、どうしてバッジを着けないのだろう。
2+2でも、小野寺防衛相は着けていたのに。
外相とは別だが、先週の北朝鮮問題の緊急国連安保理。別所大使以下の日本代表席で、青いバッジ着用者は1人だけだった。
国会でも、着用議員はごく少数だ。もっと着けてほしい。今月17日に拉致被害者家族会、救う会、拉致議連共催で、今年2回目の国民大集会が開かれるが、いつも通り共産党、社民党などは参加しない。
言論人でも、例えばかつて「横田めぐみさんらの拉致の証拠などない」と言い張った東大名誉教授が、最近の月刊誌でも「日朝国交樹立後なら、じっくりと、被害者家族による現地調査も実施して、実のある交渉を進められる」と、北側目線で、のんきなことを書いている。左派メディアの多くは、「反安倍」第一だ。国内の拉致取り組みも「オールジャパン」になり難(にく)い。だが、閣僚や外交官はオールで頑張ってもらいたい。
特に外相や国連大使。多くの日本人の思いを胸に明示願いたい。
(元嘉悦大学教授)