シェルターのない被爆国
国民防護体制の整備を
広島原爆忌の6日、私も核廃絶を祈った。「慰安婦少女」像より原爆の子の像が、世界各地に遺されることを願った。
だが、ここで奇妙な数字を並べたい。
スイス100%、ノルウェー98%、米国82%、ロシア78%、英国67%、シンガポール54%、日本0・02%。NPO「日本核シェルター協会」(織部信子代表)が公表している、各国の核シェルター普及率だ。核攻撃から身を護るシェルターが、人口の何%分設置されているか、輸入・設置されたシェルターの換気装置の容量を元に、この面の最先進国、スイスで計算された数字という。
中立国のスイスだが、冷戦中の1978年、全新設ビルにシェルター設置を義務付ける法律ができ、30万カ所も設置され、全国民+100万人を収容できる。
英国でも、新聞が「金正恩―トランプ対決で、3次大戦の恐怖」と題し、国内の主要シェルターの場所を示すなどしている。
唯一の被爆国日本で、なぜ核シェルターが作られずに来たか。まず、核兵器がもたらす地獄は、シェルターなどで防げないとの認識が強い。これはよく分かる。だが、他の理由もあるようだ。核攻撃などピンと来ない、平和ボケ安心感。政治やイデオロギー優先の反核運動と政党、メディアの左向き“反核原理主義”である。
先日の本紙で濱口和久氏も紹介していたが、下田市で、ミサイル飛来を想定した住民避難訓練の実施に、共産党市議が抗議した。「日本が戦場になると想定した違憲の訓練で、北朝鮮の脅威を煽り立て、日本の軍事力増強に国民合意を得ようとするものだ」。共産党系の「原水協」など反核団体はこの立場で、過去、国と地方の国民保護計画から核攻撃を想定した内容を削除するよう要求してきた。シェルターなどとんでもないのだ。
原水協の原水爆禁止世界大会が5日発表した宣言文も、核兵器禁止条約採択を歓迎するのは当然だが、北朝鮮非難は数行で、日本政府の「同条約不参加、米国の核の傘依存、憲法の平和原則破壊、海外の戦争参加態勢」非難に、重心を置いている。左派メディアも、北朝鮮や中国の「脅威」より、「脅威論」と書きたがる。
政府は、今年4月からやっと、Jアラート(地震・津波などに加え、ミサイル攻撃の緊急情報を伝えるシステム)の周知徹底に力を入れ、「国民保護ポータルサイト」で、身を護るためとるべき行動を検索できるようにした。地方自治体に住民訓練の実施も促した。自民党は、「避難施設を見直し、シェルターの検討なども行う」よう提言した。
こうして、日本でもシェルターへの関心が高まり始めた。
「大阪の会社が過去2カ月に、昨年までの年間の倍、12のシェルターを販売。神戸の会社も4~5月に、昨年1年分以上を受注した」などと、外電でも報じられている。
ただし、今後どんどん設置が進むとも思えない。家庭用でも数百万円かかる。
織部さんは「核シェルターに関する正しい知識が普及しなければ…。建築確認申請の項目に入っていないし、建築士や住宅メーカー、建設会社に知識がない」と嘆く。私の友人にも、巨大津波用「超強靭防災シェルター」(放射線防護仕様も可能)に関わっている者がいるが、「宣伝し大量販売する物と違う。まず自治体などの注文を目指す」と言う。だが、核攻撃に備え、避難・救助・医療体制を十分整備すべき時が来たのは確かである。国民防護に右も左もない。原爆犠牲者の霊も、子孫がノーガードで再犠牲者になることなど、決して望んでいないだろう。
(元嘉悦大学教授)