暴走続けるトランプ大統領

機能する米民主主義

Charles Krauthammerアメリカ保守論壇 チャールズ・クラウトハマー

 将来、歴史トリビアとして記憶に残ることになるだろう。アンソニー・スカラムチ報道部長が10日間で更迭され、世間を驚かせた。これは、トランプ政権という連続リアリティー番組の中で、最も面白いエピソードと言っていいだろう。自信たっぷりのごますりによる壮大なショーが話題をさらっていた一方で、それほど目立たないが、重要なことが起きていた。

 米国の強固な民主主義が、見境なく暴走を続ける政権の前に立ちふさがった。それによって、トランプ大統領にとって最悪の1週間は、米国の民主主義にとって特に有意義な期間となった。

◇軍上層部が拒否姿勢

 1、軍が、トランプ氏のトランスジェンダー排除を拒否

 直接、拒否したわけではない。それでは反逆になってしまう。用心深くかつ見事な手法でだ。大統領はツイートで、心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」の入隊を完全に禁止すると表明した。ほとんど突然のことだった。軍の上層部に相談はなく、軍は不愉快な思いをした。報道によると、この問題を半年かけて検証してきたマティス国防長官は唖然(あぜん)としていたという。

 それで何が起きただろう。何も起きなかった。統合参謀本部議長は、ツイートは命令ではないとだけ述べた。正式な命令を受け、新たな指針が作られるまで、ツイートは無視される。

 つまり、統参議長は最高司令官に、邪魔しないでくれと言ったということだ。一般的に言ってこれは、シビリアンコントロールの国では健全な状態とは言えない。不服従の気配が漂っているからだ。しかし、他に類を見ないほど衝動的で、不合理に満ちたこの大統領の下では、軍の側である程度用心し、多少距離を置くくらいの方がいいだろう。

 軍上層部は、手続き上の問題があり、行動できないとした。しかし、これは組織としての権限とでもいうべきものを思い起こさせる。この場合は、大統領の単なる気まぐれに抵抗した。次は、不法行為に対する抵抗だ。

 2、セッションズ司法長官を救った上院

 トランプ氏は、セッションズ長官を公然と侮辱してきた。これは明らかに辞任させることを狙ったものだ。だが、できなかった。その理由の一つは、議会からのセッションズ氏への支持が強まったことにある。上院の元同僚らはセッションズ氏を強く支持した。上院で最初の、最も熱烈なトランプ支持者だったセッションズ氏のひどい扱いを、公然と非難した上院議員もいる。

 司法委員会のグラスリー議長は、後任の司法長官を承認できないとして、セッションズ長官を解任しないようトランプ氏に警告した。同委の年内の予定はすでに決まっているため、新たな司法長官承認のための公聴会を実施できないというのがその理由だ。これは、大統領にとっては不愉快なことだが、上院はときおり、対等の立場であることを思い出すようだ。

◇医療保険めぐり分断

 3、上院共和党がオバマケア(医療保険制度改革法)廃止を拒否

 理由はいくつかあるが、ほとんどはトランプ氏とは無関係だ。共和党は、医療保険での政府の役割について真っ二つに割れている。この分断は、この7年間に世論が大転換したことでさらに深まった。オバマケアはこの間に、米国の医療の一部となり、医療保険は商品ではなく権利とみられるようになった。

 上院が廃止拒否という意表を突く行動に出たのは、医療保険に反発するトランプ氏への明確な拒否でもある。さらに、自身がよく理解しておらず、それほど気にも掛けていない政策決定に関する立法で、個人的な「勝ち」を収めたがっているトランプ氏を、上院が見下していることの現れだ。

 4、ボーイスカウトから抗議

 世界を揺るがすというほどではないとはいえ、大変な影響がある。ボーイスカウトの最高責任者は、4年に1度の大会で大統領が先週行った演説について、謝罪の必要に迫られた。演説は非常に不適切なもので、不平とともに、大統領自身に関すること、党派的、政治的なことも含まれていた。

 これは、ボーイスカウトでの演説としては不適切だ。大統領に技能章は与えられない。

 5、警察署長らが非難

 トランプ氏は警察官らへの演説で、容疑者を手荒に扱った警官に、明確ではないものの、支持を表明した。それに対し一部の警察署長らは、警察による暴力をあおったとトランプ氏を非難した。激しい暴力ではないと思うが、それでも暴力は暴力だ。

 サンダース大統領報道官は、すべてジョークだと言った。ナンセンスだと。不快な考え方だが、表現は控えめであり、ユーモアとして片付けることはできる。だが、暴力的な雰囲気は残る。トランプ氏はかつて、選挙集会でやじを飛ばされ、「こんなやからは」昔なら、「担架で運ばれている」と言ったことがある。

 ここに挙げた問題への読者の姿勢がどうあれ、軍上層部やボーイスカウト、上院、警察など、政界、民間の機関が自制してくれたことに感謝したい。

 トランプ氏の言動は、制度のストレステストだ。結果は今のところ上々だ。

(チャールズ・クラウトハマー、8月4日)