国連からの対日人権批判 、もっと事実を説明しよう
先月来、日本はジュネーブの国連人権理事会や関連委員会から、批判の波状攻撃を受けた。
事実誤認や偏った批判も目立ち、政府は反発している。拷問禁止委が、日韓慰安婦合意の見直しを勧告し、プライバシー権に関する特別報告者、ジョセフ・ケナタッチ氏が、テロ等準備罪新設への懸念を表明した。表現の自由に関する特別報告者、デービッド・ケイ氏は、「政府による圧力や自由への侵害」を強く懸念する報告書を提出した。
ケイ氏は、法律から沖縄や歴史問題まで、広く物言いをつけた。慰安婦報道の朝日新聞と植村隆・元同紙記者、沖縄反基地活動家の山城博治氏らは、抑圧の被害者とされている。「植村氏への圧迫は、吉田清治証言に関する朝日記事の中に誤りがあったと言われる論争の後、特に強まった。彼の記事は特に不正確な点がなかったのに…。保守政治集団は、その論争を、朝日の慰安婦報道全体を問題にするため利用した」と言う。だが、植村氏が不正確な記事で事実をゆがめ、朝日の吉田証言関連報道が×だったことは、「論争」でなく事実である。山城氏についても、彼らのデモの実態にはふれない。山城氏自身も理事会で「平和と人権の闘士」として演説した。
報告は、日本の左派NGOや言論人らの意見と情報に大きく依拠している。現地取材した産経記者は、ケイ氏がNGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)の伊藤和子事務局長と親しげにハグし、伊藤氏も理事会で「特別報告者に敵対的な日本政府」を批判したと書いている。
HRNは、11年前に発足した日本初の国際人権NGO。ニューヨーク、ジュネーブなど5か所に拠点をおき、約20の国・地域を活動対象とし、国連の特別協議資格を得て、国連人権関係機関の決定プロセスに関わっている。
私も以前、HRNの報告会に参加し、授業で引用させてもらった。インドの炭鉱の子供労働の調査など、特に優れたものだった。
だが、安倍政権発足後、重心を日本批判に移したようだ。HRNサイトによれば、今年上半期、25件の報告や声明を出しているが、うち日本関連が「人権理審査のための日本の人権状況の情報」「テロ等準備罪法案反対」など15件に上る。
ケイ氏は昨年来日した際、多数の副大臣や高官と面談したというが、報告内容には大して反映されていない。特別報告者の来日時に、初めて少し会ってもだめだ。伊藤氏らは東奔西走している。沖縄の我那覇真子氏によれば、山城氏もケイ氏と親密だ。普段から人権理、委員会と緊密に接触し、ネットでも問題を強く訴えているNGOの話の方に、耳を傾けるのは当然だろう。
一方、日本政府サイトで「慰安婦問題」を検索しても、過去の政府の謝罪や償いの基金、日韓合意などの説明ばかり。弱い。14年の朝日記事取り消しの後、「強制的に従軍慰安婦にされた」との記述は削除されたが、削除だけではだめだ。どうして「強制連行」の証拠はないこと、「慰安婦20万人」の数字も根拠がないこと、嘘(うそ)証言や記事取り消しなどの事実をもっと明確に説明しないのか。
出た報告に背を向けるだけでは、「頑迷政権」のレッテルをはられる。
ハグで驚いてはいけない。左派パワーを見習い、政府や右派も普段からもっともっと動き、働きかけ、客観的事実とそれに則(のっと)った主張を発信してほしい。
我那覇氏ら、国連に乗り込む保守派運動家も少し出てきた。政府も担当外交官を増員するとか、サイトを大幅強化するとか、思い切った手を打つべきだろう。
(元嘉悦大学教授)






