米国民主主義いまだ健在

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

反対するメディア存在
「抑制と均衡」しっかり機能

 黒い灰色の雲の下、広がる闇の中から差す一条の光。うれしい驚きの2カ月だった。民主主義制度が衰退するのではないかと心配されていたが、杞憂(きゆう)であったことが明らかになった。民主主義制度は生きている。

 昨年のドナルド・トランプ氏の大勝利は、ワシントンの「エスタブリッシュメント」に対する正面からの攻撃だった。エスタブリッシュメントは、全知、全能、上から目線の、党派を超えた「カルテル」で、すべてを取り仕切っているとされている。テッド・クルーズ氏がその一員だ。しかし、それは、見せ掛けだけだったことが明らかになった。2016年に惨めに負けを認め、取るに足らないアウトサイダーに敗北を喫した。

 その時点で、とてつもなく大きいと思われていた権力への恐れは、無気力で衰退した権力者への蔑視へと変わった。トランプ氏が全体主義をちらつかせていることが、この混乱をいっそう複雑にしている。「これを直せるのは私だけだ」「私が皆を代弁する」と宣言した。典型的な大衆扇動家だ。臆面もなく、強権的指導者へ尊敬を表明した。最もよく知られているのはロシアのプーチン大統領だ。

 トランプ氏は、熱いナイフでバターを切るように、老獪(ろうかい)な重鎮らに切り込んだ。トランプ氏が、ひ弱で衰退した既成政治勢力を軍事独裁者のように踏みつけにするのを止めることは、もう誰もできない。その上、この既成勢力は、政党や議会など伝統的な機関と同じように、国民の信頼を失い、かつてないほどまでその権威は失墜している。

 強い指導者が来た。心配されていたことだが、誰が、何がこれを止められるだろうか。

 トランプ時代になって2カ月がたち、答えが見つかった。チェック・アンド・バランスがしっかり機能していることがはっきりした。検証してみよう。

 ①裁判所

 トランプ氏は、入国禁止を2度出し、裁判所によって凍結された。しかし、この政策そのもの(私見では、お粗末で役立たずだが合法)、第9巡回控訴裁判所の憲法上の意義付け(どうしようもないほど弱く、明らかに政治的)がどのような恩恵をもたらすものであっても、事実は変わらない。大統領が提案し、裁判所が破棄した。

 トランプ氏の反応はというと、哀れなツイートが一つ、判事への不平が二つ。トランプ氏が指名した最高裁判事候補がこれを「失望した」と遠回しに非難した。

 ②州

 連邦主義は生きている。最初の入国禁止への反対は、ワシントンとミネソタ2州の司法長官からだった。これは、オバマ政権時代の流れを受けたもので、当時、州司法長官らが結束して、オバマ大統領の移民政策の行き過ぎ、環境保護局(EPA)の大幅な権限拡大をつぶそうとした。

 法廷を通じて働き掛けるだけではない、州知事ら、しかも共和党員の知事らも、共和党の大統領の目玉政策である医療保険改革に反対するよう議会議員に圧力をかけた。機関としての要請がまだ、党への忠誠を上回った。

 ③連邦議会

 共和党が両院を支配する連邦議会は、共和党政権の医療保険改革に強く反対した。確かにこれは、トランプ氏を封じ込めるというしっかりした目的があったからではなく、考え方、戦術の違いが原因だ。しかし、議会はめくら判を押すところでないことを明確にした。

 さらに、その独立性は、常に意見の分かれる医療保険という難しい課題にとどまらない。トランプ氏の予算案は議会に提出されるとすぐに、死亡宣告を受けた。どちらの党が議会を支配していてもいつものように見られる光景だ。

 ④メディア

 トランプ氏は右派だ。メディアは反対勢力だ。強く反発し、驚くような行き過ぎたことをしたりした。主要新聞の1面に、困惑するような記事が出ていることもある。ニュースと見せ掛けて、反トランプの論調がちりばめられている。

 それでも、冷静に見てみれば、ただ従うだけのメディアよりはいい。オバマ政権時のほとんどの期間、メディアはプラウダのように政府の言いなりだった。民主主義には、反対するメディアが必要だ。今は、その反対するメディアがある。

 以上をまとめると、特定の課題についてどちらが正しいという判断は置いておくとして、脅威となり得る権力に対して制度的に反対する力が依然、存在することに力づけられる。

 ジェームズ・マジソンによれば、独裁に対する最善の防御は、善をなすことではない。善もいいが、それに頼ってはならず、野心には野心で、党派には党派で対抗すべきだと言う。

 ニール・ゴーサッチ氏の指名承認でもそれはいえる。トランプ氏が最高裁判事に指名したゴーサッチ氏は十分にその資格がある。何も問題はないはずだ。それでも、力を合わせて、ゴーサッチ氏の指名承認を阻止しようと運動を展開する勢力もある。その広告は、哀れで、見ていられない。しかし、私はこれを見て安心した。このようなばかばかしい運動にも発言が許される国でよかったと思う。

 反トランプ勢力は「抵抗勢力」を自任する。フランスのビシー政権のようにも見えるが、ここは21世紀の米国だ。チェック・アンド・バランスがうまく働く素晴らしい国だ。

(3月24日)