米国VSカンボジア、この債務どうする

山田 寛

 米国とカンボジアが争っている。問題はカンボジアの債務未払いだ。

 米国は1970年代前半、カンボジアに2億7800万㌦の借款を供与した。支払い期限はとうに過ぎ、利子を含め5億㌦余りに膨らんでいる。米国が世界各国に利用され、大損してきたと憤るトランプ大統領が登場したためだろう。最近、米側が改めてその支払いを要求、カンボジアは強く反発している。

 駐カンボジア米大使は言う。「90年代から交渉したが未解決。債務額が永久に膨らむのは、カンボジアの利益にならない。対米債務不払いはカンボジア、スーダン、ソマリア、ジンバブエだけだ」。

 フン・セン・カンボジア首相も、トランプ氏当選後から、持論を声高に繰り返して対抗してきた。「米国には借金取り立て権などない。米軍爆撃で流れたカンボジア国民の血で染まった金なのだから」

 米国の借款供与相手は、70年にクーデターでシアヌーク政権に代わったロン・ノル反共政権だった。直ちに共産派(ポル・ポト派)、シアヌーク派などの「解放勢力」との内戦が始まり、75年に「解放」側が勝つ。だが終戦後、国民大量虐殺のポル・ポト暗黒政権が登場した。

 ロン・ノル政権は腐敗し弱体だったが、米国は共産主義拡大を阻むべく、軍事・経済支援に務めた。73年まで「解放地域」の村や森を猛爆し続け、第2次大戦で日本本土に落とされた量の3倍、54万㌧の爆弾を投下した。

 じゅうたん爆撃で、民衆も数万人が死んだとも言われる。農民は田畑を捨て、大量に都市に流入した。その結果、ロン・ノル政権は絶対的食糧不足に陥り、米国から大量の食糧を購入した。借款は主にそのためだった。

 フン・セン氏は「解放勢力」で戦い、ポル・ポト政権時代半ばに国を脱出、79年にベトナムの支援で同政権を倒した。93年からずっと新王国の首相だが、強権政治で国連や欧米諸国から批判されると、毒舌で反論してきた。

 そんな首相だから当然、そんな債務など払えるか、となる。破綻国家と並べられ、「過去にこだわっていると、国際機関や銀行から融資を受け難くなるよ」と“脅される”と、一層頭に血が上ってしまう。

 トランプ大統領自身は、まだ対カンボジア債権を気にする時間などないだろうが、米大使がワシントンの誰かから言われ、未払いを放っておけないとなったのだろう。

 しかし、国外のカンボジア問題専門家には、「この件ではフン・セン側に一理ある。米国が払えというのは、不道徳で非現実的だ」との声が多い。

 カンボジアでは、先日も米軍爆撃が残した不発弾が2個見つかり、撤去費用をどうするか議論になった。一方、政府が野党の活動を抑える政党法改正を目論んでいることに、米大使館が懸念を表明し、フン・セン側が「内政干渉だ」と反発するなど、別の問題も絡む。

 ちなみに、中国はポル・ポト政権の後見人だったが、その時代の借款は棒引きし、新たに現政権を援助漬けして、過去の責任を忘れさせている。

 米国も、この国を完全な親中反米派にしたくないが、安易に妥協したら、他国にも「米国の利益第一」の示しがつかない。そして、かつての自国の軍事行動の責任を認めるようなことは、絶対ノーだろう。カンボジア現代史に詳しい米ジャーナリスト、エリザベス・ベッカーは「債務返済となれば、その金を爆撃で被害を受けた共同体に再分配してはどうか」と言う。一案だが、トランプ、フン・セン両頑固政権がそんな玉虫色取引をOKするか、全く分からない。

(元嘉悦大学教授)