フリン氏、隠蔽が命取りに
ロシアとの接触は合法
選挙で共謀「証拠なし」
隠蔽(いんぺい)で罪はさらに重くなる―ウォーターゲート事件の際によく言われた言葉だ。フリン補佐官辞任問題は、犯罪の伴わない隠蔽の初めての例だ。
隠蔽されたのは、昨年12月29日のフリン氏と駐米ロシア大使の通話の内容だ。オバマ大統領在職中に敵対国と交渉したことが法に触れる可能性があり、さらに悪いことに、2016年の選挙に干渉したとしてロシアに科せられていた制裁についてキスリャク大使と話し合っていた。
どこが悪かったのか。ローガン法を行使するというのだから笑える。この法律は、ジョン・アダムズ政権時に制定され、その後218年間、誰一人としてこの法によって起訴されていない。民間人が外国と交渉することを禁じた法だが、フリン氏は当時、民間人とはほとんど言えなかった。トランプ大統領の正式に任命した次期国家安全保障問題担当補佐官であり、1カ月以内の就任に備えて外国の要人と話をすることは全く問題ない。
さらに悪いのは、フリン氏がキスリャク氏に、トランプ政権は制裁を解除する可能性があるから、報復する必要はないと話していたという点だという。だが、オバマ氏が12年の再選キャンペーン中、入ったままのマイクを前にうっかり、メドベージェフ露首相に「最後の選挙だから、再選後は柔軟に対応できる」と言ったのと、どこが違うのだろうか。
フリン氏がロシアに役に立つ情報を提供し、それによってロシアが報復しないことを決めた可能性はある。私はロシアびいきではない。ここでもう一度言いたい。それのどこが悪いのか。トランプ政権は制裁を解除していない。空騒ぎもいいところだ。
フリン氏の不正行為への非難は、リチャード・ニクソン氏への長年にわたる非難を思い起こさせる。ニクソン氏は1968年10月、大統領選直前に対抗馬の民主党候補が外交で大成功を収めないよう、パリ和平交渉に介入した。
しかし、外交でこのような勝手ともいえる行動を取れば、戦争は長引く。そして、米国人が毎日のように死亡した。フリン氏の会話は、それとは全く違う。害は全くない。
有害なのは電話をしたことではなく、うそをついたことだ。しかも、相手は副大統領だった。副大統領はその後、世界に向かってフリン氏は制裁についての話はしていないと公言した。副大統領の名誉を傷つけるようなことをしてはいけない。フリン氏は辞任を余儀なくされた。
ここまでは筋が通っている。だが、一点問題がある。罪を犯していないのに、なぜ隠したのかという点だ。なぜ制裁について話していないとうそをついたのか。理由は分からない。ほかに問題となる可能性のあるロシアとの接触があり、それについて調査されるのを阻止したかったのか。新たに大量の情報がリークされたことで、トランプ陣営とロシア当局者が選挙戦中、頻繁に接触していたことが明らかになった。その中にはロシアの情報当局者もいた。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、今のところ、トランプ陣営がロシアのハッキングなどによる米選挙への干渉で共謀、協力したという「証拠はない」。
だが、それもこれまでのところだ。それが、調査を行う理由だ。強い悪意があったとか、まったくの潔白だとかさまざまな臆測が出ている。
その一端にあるのは、トランプ陣営の、恐らくフリン氏、さらにはトランプ氏をも含む人物らが、事業や政治活動での不正をロシアに知られ、弱みを握られ、首根っこを押さえられているというシナリオだ。私にはとてつもない謀略に見える。しかし、特定はできないが、あり得ると考えている者はいる。
それとは全く逆に、おだてられたトランプ氏が自身を偉大な交渉人と思い込み、プーチン露大統領を丸め込んで、ニクソン氏と中国の間のような合意を交わさせて、一夜にして偉大な政治家になるという、たわいのないシナリオもある。そこでは、米露は協力して新冷戦の終結を表明し、力を合わせて「イスラム国」を殲滅(せんめつ)させ、欧州に関する新たな合意を交わして、寄生する同盟国の負担から解放される。
私には、この考えはばかげているように見える。戦略的にも、歴史的にも根拠のない自己陶酔的な夢物語に見える。しかし、これは、トランプ氏がそのようなことを考えていないという意味ではない。トランプ氏は、米国が石油を盗むためにイラクにとどまっていさえすれば、「イスラム国」は生まれなかったと主張しているからだ。トランプ氏がロシアについて本当にこう考えているなら、ロシアとさまざまな面で交流のある補佐官らを身の回りに置いたことと符合する。
私はどちらもあり得ないと思っているが、それ以外のシナリオは思い付かない。分からないことは依然としてある。なぜフリン氏はうそをついたのか。その答えを得るまで、隠蔽の影に犯罪を探し求めるこの件の謎は解けない。
(2月17日)






