同盟国を無防備にする米国
後退続けるオバマ政権
中東で親米国の信頼を喪失
【ワシントン】三つの危機、1人の大統領、途方に暮れる数多くの友人たち。
第1の危機はウクライナだ。気に留めている人はあまりいないが、突然、欧州に背を向け、ロシアの元に戻った。
欧州連合(EU)との通商交渉を何年にもわたって行ってきたが、ロシア得意の露骨で、容赦のない経済的脅迫を受けて、急に方向転換してしまった。そして、ロシアの友邦ベラルーシ、カザフスタンとともにロシア主導の関税同盟に加盟することを検討している。
これは大変なことだ。ウクライナは、欧州最大の国であるだけでなく、再生ロシア帝国、地域の覇権、冷戦の米国の勝利で生まれ、四半世紀にわたって発展してきた「健全で自由な欧州」を過去に引き戻す、というプーチン・ロシア大統領の夢の核心部分だからだ。
米国はこれにどう対応したか。ほとんど動いていない。力ずくで押さえつけられたイランの2009年「緑の革命」のときと同様、数十万人が、ウクライナの独立への裏切りだと主張し、抗議デモを行ったが、その声はワシントンには届かなかった。米国の政府は、民主的な未来を求める人々を言葉で支援することすらできない。04年のオレンジ革命のときと同じだ。
ワシントン・ポスト紙は、「ロシアに配慮し、米国はウクライナの騒乱に慎重姿勢」という見出しの記事を掲載した。プーチン氏を刺激してはいけない、オバマ大統領の大切な「リセット」を危険にさらしてはいけないということだ。リセットは茶番であり何も結果を出さなかった。ポーランドやチェコのような親米国は、ミサイル防衛でロシアをなだめるために犠牲にされたが、これも成功せず、両国の米国への不信感が強まった。
第2の危機は中東だ。米国がイランに歩み寄ることで、米国への同盟国の信頼は崩壊した。
ペルシャ湾岸諸国は、2度も見捨てられ驚いている。イランとの核協議で米国は、ウラン濃縮を禁じた7年に及ぶ国連安保理決議を覆し、イランが核保有国に向かうことを事実上認めてしまった。これより先、オバマ氏はシリア革命をほとんど放棄しており、地中海まで広がるアサド政権とイラン、その従属国家の「シーア派の三日月地帯」を事実上認めた。
驚いたのはイスラエルも同じだ。イランの核開発計画を阻止する気のない合意が交わされ、イスラエル空軍がイラン核計画を止めるのを阻止することに熱心な米国にだまされたと思っている。
アラブもイスラエルも、中東での米国の影響力を奪い、駆逐することを目指す政権と戦略的に協力することを夢見るオバマ氏のナイーブさが全く理解できない。
オバマ氏の支持者らは、戦争ではなく交渉をと言う。交渉ならどれも同じと思っているのだろう。青臭い考えと言わなければならない。降伏のための交渉と圧力の交渉とは同じではない。
どうすべきなのか。圧力をかけるべきだ。議会は、暫定合意が終わることになっている今からちょうど6カ月後、イランが合意を守らず、核兵器開発計画を完全に放棄する最終合意を受け入れない場合、新しい制裁を科すことをすぐに決めるべきだ。
第3の危機は東シナ海だ。中国は、オバマ氏の「アジア・シフト」に真っ向から立ち向かい、日本と韓国が領有を主張する海域まで空域を臆面もなく、大きく拡大した。
オバマ氏はこれに対してまず、中国に通告することなく爆撃機B52をこの空域に送った。素早く、毅然(きぜん)としたものだった。日本と韓国もこれに従った。しかし、日本が、中国の要求に従って飛行計画を出すことのないよう航空会社に求めたのに対し、米政府は米航空会社に提出を求めた。
当然ながら日本はこれに失望した。さらに悪いことに、バイデン副大統領が中国を訪問している間に、米政府は後退してしまった。中国の常軌を逸した要求を撤回するよう求めるのでなく、単に執行しないよう促し始めたのだ。
これに親米国は再び、驚いた。これらの親米国家が欲しいのは同盟国であり、仲介者ではない。米国のしていることは、共通の敵を持つ友邦には全く理解できない。米国は、中国の主張は無効だと宣言し、航空会社に日本と歩調を合わせるよう命じ、必要ならば軍が合同で護衛すべきだ。
これは好戦的であることを示すものではなく、他国が現状を一方的に変更した場合、多国間で連合して、断固とした措置を取るという意思を示すものだ。
米国が先頭に立って引っ張っていくべきだ。
誰もジョン・F・ケネディ張りに「自由の…成功を確保するためなら…いかなる重荷も負う」と確約するよう求めているわけではない。レーガンのように壁を引き裂けと言っているわけでもない。クリントンのように米国はなくてはならない国だと主張せよと言っているのでもない。米国の同盟国が求めているのは、後退の政策を見直すことだけだ。米国は世界中の「越えてはならない一線」から引き下がり、同盟国を無防備にしている。











