オバマ氏の恥ずべきレガシー

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

国連で反入植活動決議
譲歩迫られるイスラエル

 「いざというとき、イスラエルには私が付いている」-オバマ大統領、米イスラエル公共問題委員会(AIPAC)で、2012年3月4日

  聴衆からは拍手喝采が沸き起こった。ほとんどがユダヤ人で、熱心な親イスラエル、しかも人を信じやすい。4年後、最後の選挙から長い時間がたち、任期は残すところ1カ月、ユダヤ人や異教徒らの歓心を買う必要はもうない。オバマ氏は、イスラエルの背後に回り、ナイフを突き刺した。

 米国が棄権したことで、イスラエルの入植活動凍結を求める国連安保理決議が採択されたことが、イスラエルにとってどれほどの打撃となるかはあまり理解されていない。米政府は、以前からの入植活動への反対を改めて表明したにすぎないとうそぶく。

 不愉快この上ない。過去35年間、どの政権も、2011年に再選出馬したオバマ大統領も含め、拒否権を行使してイスラエルを擁護してきた。それは、このような安保理決議が採択されれば、イスラエル・ボイコットを訴える人々、反ユダヤ主義者、欧州の熱血検事らに、イスラエル人を罰するための強力な法的武器を提供することになるからだ。

 エルサレムの旧市街で生活し、働く普通のイスラエル人は、世界的なのけ者となり、無法者とされる可能性すらある。イスラエル軍の兵士などは言うまでもない。パレスチナの指導者マフムード・アッバス氏の側近は「すべてのパイロット、すべての将校、すべての兵士を、ハーグで待っている」と語った。ハーグとはつまり国際刑事裁判所のことだ。

 そればかりか、半世紀にわたる米中東政策の基礎を根底から揺さぶることになる。イスラエルが平和と交換することになる土地を、事前にイスラエルに領有権のないパレスチナの土地だと宣言するのなら、「土地と平和の交換」原則はどこに行ってしまうのか。

 ケリー米国務長官が12月28日にこれ見よがしに表明した平和の条件は、クリントン大統領がヤセル・アラファト氏に提示し、2000年に拒否された条件と同じだ。アッバス氏は08年にオルメルト首相に同じ条件を提示されたが、やはり拒絶した。

 ケリー氏はこの点には一切言及しなかった。イスラエル非難の発言への信頼性が損なわれるからだ。しかし、パレスチナのイスラエル非難は効果を挙げている。安保理は、これらの土地は法的にパレスチナのものだと宣言した。一方のパレスチナは何も譲歩していない。和平を受け入れてすらいない。

 米政府は、決議の内容に関しては、土壇場まで知らされず、責任はないとでも言いたげだ。表向きの決議提出国は、ニュージーランド、セネガル、マレーシア、ベネズエラの4カ国だが、これらの国々が何カ月も前から、東エルサレムのユダヤ人住宅の詳細にまで注意を払ってきたなど考えられるだろうか。ベネズエラは、自国民に食料どころかトイレットペーパーすら提供できない国だ。

 ローズ安全保障担当副補佐官は、新しいことは何もないと強調した。「ヨルダン川西岸内、分離壁の向こう側の現地の様子を見れば、これらの活動に対して声を上げざるを得なくなる」と訴えた。

 これは欺瞞(ぎまん)だ。人里離れた所にある入植者らの監視所が問題でないのは誰でも分かることだ。平和になれば、すぐに撤去できる。西岸の入植地に住んでいる右派のリーバーマン国防相ですら、「2国家共存が本当にできれば、私が住んでいる入植地の廃止も受け入れる」と公言している。これのどこが平和の障害なのか。

 第2の入植地は、1967年以前のイスラエルの国境に接する居住地だ。これに関しても、解決可能であることはすでに分かっている。これらはイスラエル領になり、代わりにイスラエルが自国領の一部をパレスチナ国家に譲り、領土を交換する。どうして平和への障害となるのか。

 最も異論が多いのは、第3の入植地だ。安保理決議2334が明確に非難している東エルサレムだ。あり得ない話であり、ばかげている。米国が、国際法上、ユダヤ国家イスラエルの「西の壁」「神殿の丘」、さらに旧市街の全ユダヤ人地区の領有の主張を認めないという宣言を認めることになる。パレスチナのものだということだ。

 神殿の丘はユダヤ教にとって最も神聖な場所だ。ここがユダヤ人のものではないと宣言することは、メッカとメディナはイスラム教のものではないと言っているようなものだ。イスラエルは今、そのような境遇に置かれようとしている。

 オバマ氏は最低でも、東エルサレムへの言及はすべて決議から削除するよう主張すべきであり、でなければ拒否権を行使すべきだった。なぜそうしなかったのか。ネタニヤフ・イスラエル首相に対する最後の個人的な復讐(ふくしゅう)としか解釈のしようがない。さもなければ、安心して自己主張ができる時が来るのをただ心待ちにしているイスラエルに対する抜き難い反感の表れか。

 オバマ氏にとってはこれもレガシー(遺産)だ。最も恥ずべきレガシーだ。

(12月30日)