次期政権は立憲主義を守れ

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

オバマ政権の8年間
行き過ぎたリベラリズム

 民主党員は冷戦終結後の20年間、ロシアの挑発と報復をどちらかというと楽観的に捉えてきた。オバマ大統領が2012年に、ロシアは主要な地政学的敵国だとするミット・ロムニー氏の主張をあざ笑った話はよく知られている。しかし、民主党員らは、国務長官に指名されたレックス・ティラーソン氏がプーチン大統領と親しいことに強く反発している。

 率直に言おう。ティラーソン氏がエクソンモービルのトップとして、ロシアと大きな取引をし、友好勲章を授与され、米国の対露制裁に反対したことは事実だ。これは厄介なことではある。だが、だからといって必ずしも不適格とはいえない。つまり、当時のティラーソン氏は、エクソンモービルの代表として行動し、石油を掘り、利益を上げることが最優先だった。

 これらの利害は、米国の利害と一致しない部分もある。ここで問題となるのは、ティラーソン氏が両者をどこまで区別し、エクソンモービルの代表としてではなく、米国の代表としてロシアに対してより厳しい態度で臨むかどうかだ。

 答えはまだ分からないが、すぐに見つかる。そのために承認公聴会がある。

 左派は、他の閣僚候補者らについても、率いることになる省庁が負う責務に通じていないと強い不満を抱いている。なんということか。まるで各省庁には、神から託された使命があるかのような言い方だ。そのような使命など憲法でも規定されていない。例えば教育省。1979年にカーター大統領が、政界からの支援を求める教員組合に対抗するために設置した。

 教師は素晴らしい。しかし、教員組合は利権、特権を守るための存在であり、学校教育の向上は二の次になっている。終身雇用を熱心に擁護し、公立学校による独占を守り、学校選択制に本能的に反対するのはそのためだ。

 保守派の考え方はその逆だ。学校教育、つまり教育省は、生徒にでき得る限りいい教育を受けさせるためにあると考える。トランプ氏が、長い間、学校選択制を熱心に推進してきたベッツィ・デボス氏を指名したのはそのためであり、教育省が教員組合の影響を受けることはなくなる。

 デボス氏は、同省の公民権局が今後も、社会的正義の仲裁者としての役割を果たし、学内の性道徳への考え方から、性転換した生徒用トイレの設置まであらゆることを事細かく管理することを許容することもなさそうだ。教育省の使命がこれまで、州や地方に託された政策を実行させることにあったのなら、そろそろ変えるべきだ。

 しかし、これまでの指名の中で最も話題を呼んでいるのは、スコット・プルイット氏の環境保護局(EPA)長官指名だ。オクラホマ州司法長官のプルイット氏は、EPAの権限縮小を求める一連の訴訟に加わり、主導し、何度も勝訴してきた。

 プルイット氏は、このポストには不適格だとみられてきた。現代のリベラリズムが信じる宗教の試験に合格しないからだ。人類の活動が気候変動を引き起こしているという宗教だ。気候変動支持者らは、プルイット氏の承認公聴会をスコープスモンキー裁判にしたいようだ。共和党員は招待を断るべきだ。その男が、月はグリーンチーズでできていると思っているかどうかなどどうでもいい。EPAの活動の問題の根底にあるのは、気象学や神学ではなく、憲法だ。EPAは、権限を著しく逸脱し、単独で勝手に行動して、法律に従わないばかりか規則を作っている。

 プルイット氏の指名は、いつの間にか拡大していた行政国家への直接的な歯止めという点で最も重要だ。EPAの官僚らは、米国の水路を守ることを想定して作られた合衆国水系規則の解釈を改めて、激しい雨が降り、個人資産が水没した時に、連邦政府が管理し、何ができ何ができないかを指示するというところまで行っている。最終的には水没は排除されたが、そこはリバイアサンの懐の深さというところか。

 もっと大きなスケールでは、オバマ大統領のクリーン発電計画がある。この計画は、本質的には発電と電力規制を連邦の支配下に置くものだが、その過程でたまたま石炭を減らすことになったわけではない。これは、オバマ政権が提出した2009~10年のキャップ・アンド・トレード(温室効果ガスの排出権取引制度)法案に対する議会の反対を回避するためのものだ。念のため言っておくと、当時の議会は民主党が多数派だった。

 プルイット氏指名は、省庁は法を運用するところであり、法を作るところではないという前提が守られるかどうかの試金石となる。立法権は議会だけにあり、肥大化する官僚機構のものではないということだ。

 そこまで基本的な立憲主義を主張するのは極端過ぎるという見方もあるだろう。だが、だとしたら、それはオバマ政権のせいだ。8年間の行き過ぎたリベラリズムの報い。オバマケアなど一部の法律は廃止される。大統領令の一部は撤回される。しかし、最も重要なのは、省庁が出過ぎたことをしないことだ。でないとすぐに国家に管理されることに慣れてしまうかもしれない。

(12月16日)