次期米政権、重要なのは政策

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

無意味な対立は避けよ
トランプ氏命運は議会次第

 政権移行を見ていて一番愉快なのは、トランプ陣営が事もなげにメディアを翻弄(ほんろう)しているのを見ることだ。それも140字以下でだ。ある朝、FOXニュースが、ニューイングランドの無名の大学で左翼が国旗を燃やしたと報じた。愚かな事件であり、大学当局が学内の国旗を撤去するより卑劣な行動だ。この事件を受けて、ドナルド・トランプ氏は、国旗を燃やすものは、収監するか、市民権を剥奪するとツイートした。

 すぐに、憲法がどうだとか、市民的自由がどうだとかという騒ぎが始まった。言論の自由や司法の独立が失われるというメディアの反発が続いているさなか、トランプ氏の関心はもう次に移っていた。今回の騒動が忘れられるのは、2015年8月にトランプ氏が出生地主義に触れた時よりも早かった。

 トランプ氏は現在、政治の舞台を完全に独り占めしている。クリントンという言葉が陳腐に聞こえ、バラク・オバマ氏はまだ合衆国大統領だが影は薄い。オバマ氏は6日に、国家安全保障に関する重大な演説を行ったが、マイケル・フリン中将の息子の方が注目された。

 トランプ氏は、よくできた次期政権の人選劇で全米のメディアを魅了している。ブロードウェーに出してもいけそうなほどだ。それだけではない。数々の私的な立場での介入も芝居を見ているようで、従来の基準で見ればおよそ大統領のすることとは思えない。

 問題はその規模だ。大統領にしては小さい。インディアナ州のキャリア社の工場の閉鎖を阻止し、内容のない45秒の意表を突く声明で大規模な日本からの投資を発表し、ボーイングが製造する新エアフォースワンのキャンセルを要求した。

 小さ過ぎる。業者と交渉する次官や、中央アジアの貿易使節団に取引を呼び掛ける州知事のレベルだ。ミシガン州の予備選での勝利後の奇抜な勝利演説でトランプ・ステーキ、トランプ・ワインを売り込んだ候補時代のようだ。

 大統領は普通、そんなことはしない。大統領の権威を損ねる。だが、改めて言えば、トランプ氏はまだ大統領ではない。ここで重要なのは、実質ではなく象徴だ。

 キャリアでの出来事は、労働者が抱える懸念をアピールするためのものだった。トランプ氏を「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」で勝利させ、大統領に押し上げたのは、この労働者らだ。ソフトバンクの発表は「神が創造した中で最大の雇用大統領」になるというトランプ氏の公約の頭金だ。だが、一部うさんくさくもある。この投資の約束にトランプ氏が貢献しているとは思えないからだ。この規模の投資計画なら、投票日のずっと前から計画されていたはずだ。さらにボーイングはここぞとばかりに、トランプ氏なら、期待されている通り、政府の予算が国外に流れるのを全力で阻止してくれると宣言した。

 一見、思い付きに見えるトランプ氏の発言だが、一つの論理に基づいている。選挙戦時の発言との一貫性は守っている。得票数でも間違いなく勝利したとツイッターで主張したように、トランプ氏は正当性の問題には非常に敏感だ。だが、実際には得票数では大幅に負けている。トランプ氏への支持をよく表しているのは支持率だ。8月のブルームバーグの世論調査では33%だった。今は50%に上がった。2008年同時期のオバマ氏の79%にははるかに及ばないが、確かに改善している。

 これまでの小さな介入は効果を挙げているが、次期大統領という地位を私物化しているという点でリスクもある。これは第三世界の独裁者をまねた手法で、一般市民との私的な関係をアピールすることを重視する。だが、本当の民主主義では、政治家として支持が得られ続けるかどうかは、国家レベルで成功するかどうかに懸かっている。それは、キャリアのような規模では無理だ。重要なのは政策だ。根本的な構造を変え、国家の針路を修正する政策だ。

 トランプ氏は党大会の演説で「修復できるのは私だけだ」と堂々と宣言した。確かに、キャリア、ソフトバンク、ボーイングでのようなことができるのはトランプ氏だけだ。しかし、最終的には、税制改革、医療保険、経済成長、全米での雇用創出で公約を果たさなければならない。それには議会の協力が必要だ。

 第115連邦議会は共和党が多数派となり、立法を通じてこれらの公約を実現する用意はできている。トランプ氏は意味のない対立は避けるべきだ。共和党指導部はすでに、雇用を国外に移した企業への課税など、一部の課題に強く反対している。それでも、トランプ氏と議会多数派との間で一致する部分は多くあり、17年を実りある年にすることは可能だ。それは、共和党が受け入れられる範囲内にとどまれるかどうかに懸かっている。

 今後もツイートは続き、メディアはそれに飛びつく。面白くはあるが、余興にすぎない。トランプ政権の命運を決めるのは議会だ。

(12月9日)