次期政権と議会の協調が鍵
まずはオバマケア廃止
レーガン主義者との和解を
ドナルド・トランプ氏は堂々と勝利し、ヒラリー・クリントン氏は敗北宣言で、広い心で、リーダーとしてのトランプ氏に協力したいと語った。トランプ氏を強く非難してきた(私のような)保守派には、共和党が支配する今後の何年間かをいかに充実させるかについてよく考える責任がある。
まずはトランプ氏の優れた政治的直感を認めなければならない。ポール・ライアン氏は翌朝の和解の記者会見で、トランプ氏には「この国で、ほかの誰にも聞こえなかった声」が聞こえていたと話した。トランプ氏は、急速な技術的・経済的変革に搾取され、打ちのめされてきた労働者階級に語り掛け、擁護した。
第1党になった共和党の主要な使命は、国民の生活や今後の見通しを変える政策を作り出すことだ。最終的にトランプ氏を大統領に押し上げたのは、新しいグローバル化されたデジタル経済に取り残された人々だった。
だが、この選挙は単に社会的・経済的分断だけでなく、左派と右派の間の思想的分断をめぐる戦いでもあった。今選挙の中で見落とされている最大の要因は、オバマ主義への深く、広範囲の、長期にわたる不満だ。
この点は、オバマ大統領への支持率が、最新のギャラップ調査で56%と依然高いため、見落とされがちだ。オバマ氏はカリスマ的な活動家として、調査に名前が登場するといつも勝利する。しかし、2010年、14年、16年、民主党は大敗北を喫した。
その原因は分かっている。問題は、オバマ氏自身ではなく、その政策にある。オバマ氏が選挙運動しても、オバマ氏自身ではなくその政策について問う選挙だと言えば、敗北する。そして今回は、オバマ氏のレガシー(遺産)をめぐる選挙だった。
オバマ氏は就任直後から、思想的に行き過ぎていた。その中でも特に際立つ実績は、オバマケア(医療保険制度改革)だ。オバマケアの保険料と控除免責額が選挙前のわずか2週間前に急上昇し、オバマ主義が作り上げたこの保険がいかに有害かが改めて示された。
第1党となった共和党にとってもう一つの重要な使命は、オバマ主義を終わらせることだ。まず、移民から気候変動までのすべてに関するオバマ氏の大統領令を破棄することだ。その上で、尊大なリベラリズムを推進しようという手の込んだ政治的試みをやめなければならない。手始めは言うまでもなくオバマケアだ。
これこそが、トランプ大統領の公約だ。議会共和党と協力できれば、オバマ主義を歴史の中のほんの一コマとすることは可能だ。そうすれば、ホワイトハウスから追放されながらも、ずっと生き続けてきたレーガン主義者らの政策を法制化するチャンスが共和党に巡ってくる。
ワシントンで長年続く行き詰まりが、共和党の議事進行妨害につながった。逆に、下院共和党が通過させたメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険)改革のような重要な法案は、民主党のリード院内総務によって上院で否決され、オバマ氏の拒否権で葬り去られてきた。
廃止する一方で、これからできることもある。国境警備の強化であり、壁の建設ということもあり得る。これ自体いい方法であるばかりでなく、国内に居住する不法移民への滞在資格の付与など包括的な対応へのきっかけともなり得る。これは、出口調査によると、10人に7人以上が支持した。
最高裁の判事指名という問題もある。方向の定まらない現在の最高裁を、故アントニン・スカリア判事の後任に保守派判事を指名することで立て直す。
選挙戦中、トランプ氏のポピュリズムは、伝統的なレーガン主義とよく対立した。共和党の成功は、両者が、統合とまではいわないものの、和解できるかどうかに懸かっている。二つの課題がある。思想と社会経済だ。両者に対応する必要がある。小さな政府と厳格な立憲主義というレーガン主義の核心に加えて、有権者の抱える問題を真剣に捉えることが必要だ。これこそが、トランプ支持者の反乱が起き、長期間苦しみ、ないがしろにされてきた労働者階級が活気づいた原因だ。
レーガン支持の保守派は、高率の関税、重商主義的経済、貿易戦争など間違った解決方法を阻止したければ、連邦賃金助成や限定的な貿易制限のような方法を受け入れる用意をしなければならない。それには経済効率を諦めることも必要だ。しかし、その目的は、社会に安心をもたらす方法を確立し、圧迫され、動揺している労働者階級の威信と安全を回復することだ。思いやりのある保守主義と呼んでもいいだろう。
トランプ大統領にとって成功の鍵は、レーガン支持者らと党内のポピュリストが思想を犠牲にしてでも互いの目的に向かって意欲的に進むことだ。これには、トランプ政権と議会共和党の間の広範囲にわたる交渉が必要となる。共和党は、政治部門すべてを獲得した。手段は整った。実力を示すべき時が来た。
(11月11日)