共和、党大会で結束示せず

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

内部に反トランプ勢力

クルーズ氏は支持表明せず

 【ワシントン】現代の党全国大会の最大の目的は、テレビを通じて4日間にわたって党を宣伝することにある。指名候補は事前に決まっており、大会には党の体制に関する補助的な役割もある。最後の戦いに臨む前に、党を一つにまとめ上げることだ。しかし、クリーブランドでの大会で共和党は一つになれず、結束は見せ掛けにすぎない。

 内部の反対勢力は二つある。目立ったのはテッド・クルーズ上院議員支持派だ。最初の活動は、少ない人員で、十分な計画も練られないまま1日目に強引に実行された。大会規約に対する小さな反乱だ。2度目は、20日夜の大会でのクルーズ氏の演説だ。クルーズ氏は予想を裏切って、ドナルド・トランプ氏支持を表明しなかった。

 大会以外の場でこれをするのと、支持していない人物の祝いの場にゲストとして招かれてするのとでは話が違う。

 クルーズ氏は、大ブーイングの中ステージを降りた。演説は自殺行為であり、米国の政治史上、最長の遺書となった。クルーズ氏が、1976年のロナルド・レーガン氏のようになることを思い描いていれば、レーガン氏がジェラルド・フォード氏への支持を表明したように、トランプ氏を支持していたかもしれない。レーガン氏は、熱狂する党大会で、次点候補として党の指名獲得にあと一歩まで迫り、4年後には指名を獲得した。

 選挙キャンペーンの最初の半年間にトランプ氏にへつらい、おもねるようなことをしていなければ、クルーズ氏の反乱は、もっと強く人々の心に響いたかもしれない。クルーズ氏が21日にテキサス州代表団を前に演説を行い、「私は、妻と父親を攻撃する人物を支持することはできない」と語ったことで、政治的計算という印象が強まった。クルーズ氏がそう思うのは驚くようなことではない。驚くべきは、大勢の前でこのような発言をしたことであり、高邁(こうまい)な原則に基づいて行動するという主張は説得力を失った。

 もう一つの勢力は、反トランプ勢力だが、はるかに捉えにくい。党の議会勢力のリーダーらであり、公的にはトランプ氏に忠誠を誓う一方で、内心では受け入れていない。ミッチ・マコネル上院院内総務とポール・ライアン下院議長の演説からは、現代の「隠れユダヤ教徒」にはなりたくないという気持ちが感じられる。

 マコネル氏の言葉はいつものように、実務的で、直接的だった。上院で達成すべきことがある。だが、オバマ氏も、クリントン氏も署名しようとしない。トランプ氏は署名する。

 言うまでもなく、これはほとんどが予測であり、希望だ。共同戦線を維持しなければならない党のリーダーとしてはこれでいい。問題は、トランプ氏に、他の誰の政策課題も手助けする気がないことだ。その上、隠れユダヤ教徒は、大統領の最も重要な役割である外交と国外での軍事政策にはあえて触れない。ほぼ完全に大統領の専権事項だからだ。

 ライアン氏はマコネル氏より若干、哲学的だ。「ベターウェイ」と呼ばれるリフォーミコン(改革派保守)の政策課題を提示した。それを実行するには、共和党大統領が必要になる。ライアン氏は、アウトサイダー王のトランプ氏にほとんど媚(こ)びようとしない。

 その上、保守派の思想を擁護し、その根底には「すべての隣人、同胞」への「尊敬と同情」があると指摘した。「誰もが平等で、すべての人に居場所がある」「無視されていい人はいない」からだ。勝者と敗者、自国人と外国人(インディアナ州で生まれ育った判事も含む)という、マニ教のようなトランプ氏の二元論とは全く違う。

 マコネル、ライアン両氏は、トランプ氏が勝てば、協力する用意があることを表明している。トランプ氏が負ければ、引き継ぐ用意がある。

 トランプ信奉者らには、仲間がいる。その最大の代表格は、雄弁なニュート・ギングリッチ氏だ。共和、民主両党で最大の雄弁家だ。ギングリッチ氏が提示したトランプ主義は、一貫性があり、簡潔であり、これはトランプ氏にはまねできない。

 副大統領候補のマイク・ペンス氏の演説は、心を打つ、控えめなもので、伝統的保守主義とトランプ氏の反抗的なポピュリズムをうまく橋渡しした。スムーズで、自然ですらあった。

 ルディー・ジュリアーニ氏は、トランプ氏を支持する熱のこもった演説をし、法と秩序を強く訴えた。その熱狂ぶりは、専属の心臓専門医に間違いなく警告されるレベルだ。

 クリス・クリスティー氏は、無能で、性格も悪いとヒラリー・クリントン氏を告発した。クリスティー氏は判事のように「有罪か無罪か」と問い掛け、聴衆は興奮しこれに応えた。これを見て、やはり裁判はコロシアムでなく、法廷で行われるべきだとつくづく思った。

 代表団は上機嫌で、氏名点呼投票が行われ、各州がアピール合戦を展開した。コネティカット州は「わが州にはペッツキャンディー、原子力潜水艦、…ワールド・レスリング・エンターテイメントがある」と訴えた。あー、神様。

(7月22日)