一貫性欠くトランプ氏の外交
前面に「米国第一」主義
国外への関与縮小を主張
【ワシントン】米国の選挙が、外交問題に左右されることはない。外交は、西側の国の中で最も米国が興味のない分野だ。理由は簡単だ。必要がないからだ。この生来の孤立主義は、米国の地形的例外主義からきている。ビスマルクはかつて、米国はあらゆる大国の中で最も幸運な国だと言ったとされている。両側に弱い国が接し、他の両側には魚がいるからだ。
2度の大戦、核ミサイル、国際テロによって、孤立による安全が幻想であることがはっきりした。だが、民主党の大統領候補指名争いで外交政策が邪魔者扱いされ、最低賃金12㌦とか15㌦が適正かどうかに関する基本的な問題に注目すべきだと言われるとそうは思わないだろう。
しかし共和党では、外交政策をめぐって激しい議論が展開されてきた。これには、ドナルド・トランプ氏も大いに貢献している。だが、トランプ氏の外交政策は、ほとんどが思い付きであり、矛盾し、意味が分からない。そのため、トランプ氏は4月27日に外交政策に関する演説を行った。ぶれず、真剣で、大統領に適していることをアピールするためだ。
トランプ氏はチェックボックスに印を付けるように、外交政策シンクタンク、ナショナル・インタレスト・センター(ニクソン・センターとも呼ばれる)で「重要演説」を行った。こうして、政治的な要請を満たした。
主要テーマは、発表されたように「米国第一」だ。古典的なポピュリストで、相変わらず人気があるが、ひど過ぎる。第一、意味が分からない。米大統領が米国の利益を拡大しようとするのは当たり前だ。トルーマンは韓国人のために朝鮮戦争に加わったわけではない。米国の安全を守るには介入が不可避だと考えたからだ。
それに、米国第一は新しいものではない。1940年、英国は命懸けで戦い、チャーチルは米国に支援を求めていた。米国の介入に敵意むき出しで反対していた組織の名前が米国第一だった。だが、まったく信頼されず、真珠湾攻撃の4日後に解散した。
皮肉なことに、オバマ大統領はこの言葉を使うことはないが、外交の基本テーマになっている。その外交をトランプ氏は、災厄だと非難し続けている。オバマ氏の主張を平たく表現すれば、米国は国外に手を広げ過ぎ、力を注ぎ過ぎたとなる。トランプ氏と変わらない。オバマ氏は2009年10月のウェストポイントでのアフガニスタンに関する演説で「私は自国の建設に最も興味がある」と言い切った。
これは、バーニー・サンダース氏の主張と同じだ。驚くようなことではない。右と左の孤立主義は、1930年代以降、同じ考え方を持ってきた。
左右両派は長い間、米国の後退と縮小を主張してきた。相違点は、リベラル派が孤立を求めるのは、米国が世界に出ていけるほどの国ではないと考えているからであり、その一方で、保守派が世界から手を引こうとするのは、世界が米国が関与するほどのものではないと考えているからだ。
オバマ氏にとって、米国は世界の覇権国として振る舞えるほど高邁(こうまい)な国ではない。米国の手は汚れているというのだ。外国に行っては、米国の罪の数々を告白している。1953年のイランのクーデター、カストロ政権のキューバへの厳しい対応、最大の汚点は広島だ。オバマ氏は懺悔(ざんげ)の広島訪問を検討中だ。
トランプ氏なら、そのような自虐的な訪問は直ちに拒否する。トランプ氏の外交方針は、誇り高いナショナリズムからきている。御し難い民族、国民は、米国人の血と資金を投入するだけの価値はないと考えている。
これが、リンドバーグ氏、パット・ブキャナン氏、ランド・ポール氏らの保守的孤立主義の基本的な考え方だ。分からなくはない。しかし、トランプ氏の場合は一貫していないばかりか、矛盾していることもよくある。最終的には、中東を安定化させることを約束した。現場にいない上に、リスクも冒さず、資金や軍の投入もせずにどうやって実現するつもりなのか。イランが「大国」になるのを許したとオバマ氏を非難した。かといって、対抗することを求めるわけでもない。そうなれば、自動的に介入することになるからだ。
だが、予測困難なことに関するトランプ氏の主張はさらにつじつまが合わない。不動産取引でこうなったのだろうが、ホッブズの考えに従えば、米国の同盟国は、ぶれない米国を頼りにしている。国家の存続が関わる場合もある。しかし、トランプ氏は、オバマ-クリントン外交政策を、全く一貫性がなく同盟国の信頼を失うと非難した。イランへの傾斜、シリアでのレッドライン、東欧のミサイル防衛の放棄、ホスニ・ムバラク氏を見捨てた。
トランプ氏はプロンプターに映し出された原稿を読み上げた。これは外交政策を明確にするためのものだったが、かえって混乱を招いた。基本原則はこうらしい。オバマ-クリントン政策を継承し外国から手を引くが、それは国家として自信がないからではなく、国家的利益を追求するからだ。トランプ氏の一貫性を欠く振る舞いからはこのような結論しか出てこない。
(4月29日)






