米国の命運は大統領選次第

 【ワシントン】誰にでもそれぞれの季節感というものがある。私の場合は、4月の初め、朝になるとすぐにワシントン・ポスト紙の1面を飛ばして、スポーツ面に行くようになると春を感じる。野球のボックススコアを楽しんでから、観念したように政治面を読む。

 野球ファンでない友人らは、私がどうしてそこまでのめり込めるのかは永遠に分からない。ファンであることが理屈ではないことにはまったく同感だ。だが、家があり、家族があり、仕事を二つ持ち、(イングランド人に迎えられたデーン人のクヌート王のように、拾われ、ようやく慣れてきた)ウィル・ファレルという名前の猫を飼ういい大人がどうして、二十数人の大金持ちの赤の他人が、だぶだぶのユニホームを着て男の子の遊びをするのに夢中になるのはどうしてだろう。

 どうでもいい。ただ、地元のワシントン・ナショナルズが勝つと気分がよくなる。これはどうしようもない。

 10年前、ナショナルズがワシントンに来たばかりの時は、あまり勝てなかった。2008年から09年は205敗だった。それでも試合を見に行った。チームの調子がいい時は、勝つのを見に行く。調子が悪い時は、試合を盛り上げるために行く。フィールドの外からチームの力になる素晴らしい瞬間だ。

 ナショナルズは今では素晴らしいチームになり、試合に行けば必ず楽しませてくれる。チームに入ったばかりの二塁手は、完璧なレベルスイングと両足を地に着けた打法でリーグをリードしている。エースは昨シーズンに2度のノーヒットを記録した。これは過去115年で6度目だ。ブライス・ハーパーもいる。

 ハーパーは、世界一、恐らくいや銀河系一の選手だ。今後3年間はナショナルズでプレーする。その後はフリーエージェントになり、プロスポーツ史上、最高額の契約を獲得する。うまくいけば、資金力のあるドジャースかヤンキースに行くかもしれない。そうなれば5億㌦だ。それは時間の問題だ。

 それはそれとして、2019年までに米国は、借金まみれになっているか、イスラム法の国になっているかもしれない。米国の運命は、民主が勝つか、共和が勝つか次第だ。取りあえずは、食べて、飲んで、ハーパーを見るしかない。

 ハーパーは16歳で、「選ばれた者」としてスポーツ・イラストレイテッドの表紙を飾った。19歳でナショナル・リーグ(NL)のルーキーとなった。ほとんどのエリートプレーヤーが大学野球を始める年だ。22歳の時、最年少で、全員一致でNL最優秀選手(MVP)に選出された。昨年のことだ。今年はさらに調子がいい。

 ルーキーのころのハーパーは生意気で、やる気満々で、向こう見ずなことをすることもあった。メジャーリーグ入り8試合目で、元ワールドシリーズMVPの投手が、ハーパーに思い知らせようとわざとボールをぶつけたが、その後すぐにこの投手から本塁を奪った。MVP投手の脅しも効果はなかった。

 最近は、試合で激高するようなことは減ってきた。もう外野フェンスに激突することはない。球を読み、データを利用して、激しく爆発的なスイングをコントロールしている。過去10年間、三振の割合が24%に達している昨今の野球で、ハーパーは、この原稿を書いている時点で、三振よりもホームランの方が多い。

 ハーパーの打席を面白くしているのは、このホームランだ。14日には通算99本目のホームランを打った。満塁でツーアウト、ナショナルズは1-0で負けていた。聴衆は沸いた。

 映画に出てくるロイ・ホッブスのようだ。ライト方向へのライナーは、2階席のスコアボードに当たった時、まだ上昇しているように見えた。アイスクリームのグッドヒューマーの広告に当たり、その衝撃で「r」の文字が壊れた。場内は熱狂した。

 ハーパーの初の満塁ホームランだった。5日後、また満塁に遭遇したらハーパーはどうするだろうか。

 ハーパーは春のトレーニングで、サイヤング賞のジャスティン・バーランダーからホームランを2本打った。2本目は、ちょうどセンターの真ん中の420フィート(約128㍍)の印のある35フィートの壁を超えた。ナショナルズの新しいピッチングコーチは信じられないといった様子でマネジャーに「これを毎日見せられることになるのか」と言ったという。

 ワシントンに住んでいるなら、ナショナルズの若い「ミッキー・マントル」を見に来るべきだ。1シーズンに81回見られる。大統領選やキューバにへつらう大統領に幻滅し、カリフォルニアのワカサギが絶滅しそうになっても心配は要らない。春だし、暖かいし、野球がある。ハーパーがいる。カブスが好調だがそれはそれだ。

(4月21日付)