強盗にも礼儀あり


地球だより

 ラオスでは隣国タイのテレビ放送を見る人が多い。ラオス語とタイ語はそれほど違いがなく、国境メコン川を越えて飛び込んで来る越境電波にチャンネルを合わせるだけで無料で楽しむことができる。チャンネル数の少ないラオス国営放送より多様なチャンネルを持つタイのテレビ放送の方が娯楽性も高く、詳細なニュースをフォローする上でも役立つことが多い。

 そのラオスの首都ビエンチャンで、東京外大ラオス語専攻の女子学生2人と話す機会があった。その学生に、タイ語とラオス語の違いを聞いた。最大の相違点は、通常、タイ語には丁寧語を付けて話すが、ラオス語にはこれがないという。

 なるほどタイ語は、男性の場合は「クラップ」、女性の場合は「カー」の言葉を文末に添えることから始まる。

 これを省略しても基本的に理解はできるが、違和感があるのがタイ語だ。丁寧な言葉遣いがタイのコミュニケーション文化の特徴なので、相手の地位や年齢にかかわらず、双方がよほど気心知れた親しい間柄でない限り、「クラップ」「カー」を文末に添えるのが基本となる。

 先だってタイの首都バンコクで複数のコンビニ店が拳銃を持った強盗犯2人に襲われた事件で、防犯カメラに映った映像が話題になったことがある。犯人が逃げる際、コンビニの店員に合掌している画像が残されていたのだ。その後、捕まった19歳と20歳の犯人は、これについて「店員が抵抗しなかったことに感謝したもの」と説明した。「ワイ」と呼ばれる合掌は、タイで人と会ったり別れたりする際に相手に敬意を示す丁寧なあいさつだが、タイでは強盗でさえ礼儀をわきまえている。

(T)