イランの狙いは制裁緩和

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

核開発止められない暫定合意

ウラン濃縮施設は手付かず

 【ワシントン】報道によると、話題を変えようと必死の大統領と、名声を得たくて必死の国務長官が、イランと「暫定的」核合意を交わそうとしているようだ。それまで寛容だったフランスはこれを「いんちき交渉」と呼んだ。

 10年もの間、交渉相手をはぐらかし、見下してきたイランがテーブルに着いたのは、経済制裁の影響があまりに深刻で、政府が国の存続に関わると考えるようになったからだ。理由はそれだけだ。イラン通貨は暴落し、インフレも進んでいる。

 ほかに理由はない。宗教指導者らにとって最も大切なのは政権の存続であり、核兵器はその次だ。しかし、交渉に乗り出した最大の要因は、オバマ大統領があり得ないほどバランスを欠く交渉条件を提示し、イランがそれに飛びついたからだ。欧米は、うわべだけの変更と引き換えに、イランの核開発能力をまったくそぐことなく、制裁を緩和することになるのだろう。

 だが心配は要らないという声がある。これは半年間の暫定合意にすぎず、最終合意に至るまでの「信頼醸成」措置だからだ。だが、信頼醸成は無意味だ。経済的な圧力が最大限に強まっている今、イランに核開発計画を放棄する最終合意を受け入れさせることができなければ、経済的圧力が弱まった後で合意を受け入れさせることができるわけがない。

 交渉戦術としてはかなり奇妙だ。内容を見るとさらに奇怪だ。それはまるでイスラム宗教指導者らのための救済策だ。

 石油、金、自動車部品の貿易を増額し、イランの資産の凍結を解除する。これによってイランの外貨準備は25%増え、完全に利用可能な外貨準備は倍加する。これほどの巨額の資金の供給は、停滞するイラン経済にとっては渡りに船だ。インフレは止まり、資金不足は緩和され、低下している国威も発揚できる。合意への期待がすでに、経済予測に影響を及ぼしている。国外の石油企業などが、制裁の完全解除を見越して、貿易の再開へ向けた交渉を再開する準備を始めていることが報じられているのだ。

 何のための交渉なのだろう。イランが核兵器の開発を放棄すれば、制裁は緩和されることになる。これまでやってきたことはすべてそのためだ。

 だが、今回の交渉にそれはない。一切ないのだ。イランの核施設は手付かずのまま残されることになる。1万9000基もの遠心分離機はすべて維持される。その中には、5倍の速度でウランを濃縮できる第2世代の遠心分離器3000基がある。

 ただの1基も解体されることはない。遠心分離器を製造する施設はすべて手付かずのままだ。シリアで査察官が最初にしたことは、化学兵器を製造する施設を破壊することだった。その後、備蓄されている化学兵器の廃棄に取り掛かった。これが普通だ。そうでなければ、すべての活動が無駄になってしまう。化学物質だけを廃棄しても、製造施設があれば、新たに作ることができるからだ。

 イランで起きていることはまさにこれだ。20%濃縮のウランを使用できなくしても、元に戻すことは可能である上に、すぐに作り直すことができる。現在保有している3・5%のウランを1カ月以内で20%にまで濃縮する能力をイランは持っているからだ。

 アラクのプルトニウム施設などイランの核施設に手を付けずに制裁を緩和しても、その裏をかいて違う方法で核兵器獲得を目指すことは可能ということだ。フランスはアラクの施設に関して懸念を表明したが、無視された。

 ポイントは極めてシンプルだ。遠心分離器を解体し、製造を止めない限りイランは、数カ月もあれば核を持つことができるということだ。報道によると、今回の合意案には、イランがウランを濃縮する「権利」が認められたと解釈できる部分があり、欧米側は、イランが今後ずっと核保有直前の状態のままであり続けることを受け入れることになる。

 心配無用、制裁緩和は撤回できるという考えはばかげている。現在のような制裁を行うのは極めて難しい。ロシア、中国、インドの抵抗を乗り越えるには長い時間がかかるし、イランからわずかな利益を得ている欧州諸国も足を引っ張る。

 緩和が始まれば、まず再開は困難だ。同盟国にそのような意欲はまったくない。残っている制裁を強化すれば、イランを挑発し、暴走させることになると非難されている。米議会は、イランが合意を破った場合に制裁を強化するよう求めたが、オバマ氏は22日、交渉の失敗につながるとしてこれを非難した。

 イスラム指導者らは、直ちに政治的・経済的緊張を緩和してくれるものとしてこの暫定合意を強く求めている。暫定合意が交わされれば、米国にとって唯一価値がある合意部分、つまり、検証可能な形で核開発計画を放棄するという合意を交わすことなどイランは忘れてしまうはずだ。

 見事な手腕だ。

(11月21日)