恐ろしい医学界の思い込み

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

間違っていた脂肪論争

グルテンフリーは無意味

 【ワシントン】連邦政府は1980年の「米国人のための栄養ガイドライン」で、飽和脂肪酸の悪影響について警告した。その時、公益活動家らはこれを支持し、大手食品企業に飽和脂肪酸の代わりにトランス脂肪酸を使用するよう求め、実行させた。35年後の今、食品医薬品局(FDA)はようやく、トランス脂肪酸が有益でないばかりか、安全でもないと判断し、すべての食品から取り除くよう命じた。何ということか。

 思い込みというのは恐ろしいものだ。それは科学でもあり得るということだ。もともと私は、この脂肪論争にはそれほど興味はなかった。ジャンクフードばかり食べていた医学生だったことから、もっともらしい「発見」の数々が出てきては消えていくのを見て、無視することを心に決めた。

 今のところ、この判断が間違っていたとは思っていないし、卵の代わりとなるものは見つかっていない。トランス脂肪酸は、一時的なはやりのようなもので、いずれ撤回され、排除されると思っていた。それに、私が間違っていたとしても、卵とハムではなかなか死ぬことはなく、いつかバスにひかれる可能性の方が高まっていたことだろう。いずれにしてもウィン・ウィンだ。

 誤解しないでほしい。こんなのんきな運命論を押し付ける気はない。私の個人的な問題だ。だが、懐疑論は訴えておきたい。医学界で当たり前のように受け入れられてきた人間の体温について考えてみたい。成人の平均体温はカ氏98・6度(セ氏37度)とされてきた。1992年に3人の研究者が改めて測定してみると、この、1878年のドイツでの研究に基づく従来の数字が間違っていたことが分かった。カ氏98・2度(セ氏36・78度)だったのだ。

 114年間も間違いが信じられていた。これを見れば、ウディ・アレン監督の「スリーパー」の理屈も受け入れやすくなる。200年後に、喫煙は健康に良く、果物はよくないことが分かるという物語だ。それでも私は桃が好きだが、それはおいしいからだ。寿命を1カ月延ばしてくれるかもしれないと思うからではない。

 皮肉を言いたいわけではない。事実を言っているだけだ。魚油を見てみたい。少なくとも10年間、国立衛生研究所(NIH)は、心臓血管病の予防になるとしてオメガ3脂肪酸と魚油を強く推奨してきた。

 だが私は負けない。魚介より肉という自身の食に対する偏見と、命の真実がいつか完全に解明される時が来るという信念は曲げない。待っているのだがまだ、私のこの信念の正しさは完全には認められていない。NIHはまだ食用の魚油を推奨している。だが、オメガ3脂肪酸のサプリメントは効果がないことを発見した。

 医学的懐疑論の見本の一つとしてビタミンCも挙げられる。ノーベル化学賞受賞者ライナス・ポーリング氏は、全種類の病気を回避するためにビタミンCの大量投与を始めた。私には異様としか思えない。確かに、クック船長と7カ月も海に出ていて、かんきつ類がまったく手に入らなければ、壊血病を予防するためにある程度のビタミンCを摂(と)ることが必要になる。そうでもない限り、この大量投与は意味がない。進化は非常によくできている。200万年にわたって、ホモ・エレクトスもネアンデルタール人も現在の人類も皆、サプリメント店に行かなくても毎日、ビタミンCを摂取している。

 これで十分なのだ。ずっとこうしてきた。だが、いつも新たな風車が登場して回り始める。最新のものはグルテンだ。

 小児脂肪便症にかかっていれば、グルテンフリーの食事が必要になる。しかし、その病気にかかっている人は1%以下だ。それでもスーパーマーケットの棚にはグルテンなしと書かれた製品があふれている。売り上げは天井知らずだ。

 たがこれもばかげた話の一つとなった。3200点もの製品を調査したオーストラリアでの大規模研究で、グルテンフリーは無意味であることが明らかになったのだ。主任調査員のジェイソン・ウー氏は「これらの食品は非常に高価で、売れ行きもいい。しかし、栄養全体を見た場合、その差は無視できるほどであることが分かった」と指摘している。

 だから言わんこっちゃない。

 だが、これらの製品を店の棚から下ろせと言う気はない。プラシーボ(偽薬)にはこだわりがあるからだ。プラシーボの効果は今後も変わることはないと思っている。若いころに総合病院で精神科医をしていた時のことだ。治癒力があると思い込むと、砂糖でも水でも、著しく症状を緩和する効果が出る。それを実際に見てきたし、実行した。

 だから確信している。プラシーボで痛みが緩和するなら、強力な鎮痛薬よりその方がいい。グルテンフリーの食品で元気づけられるのなら、それでいいと思う。しかし、どちらを取るにしても礼節は必要だ。オメガ3脂肪酸やグルテンフリーを好む美食家らは、その自己満足を捨てるべきだ。私もそれ以上のことを要求する気はない。

(12月25日付)