シリア難民で窮地の共和党

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

原因は米外交の失敗

自身の責任認めないオバマ氏

 【ワシントン】シリア難民の問題が全米を騒がせている。発端は大統領にある。必死で外交政策の失敗から注意をそらし、安全地帯に逃げ込もうとしている。いつもの、批判に対して感情に訴える手法だ。今回は、夫や親を失ったシリア人に対する思いやりがないと反論した。

 だが、これらの人々が不運にも夫を失い、親を失い、避難を強いられ、家をなくしたことに対する自身の責任はみじんも認めていない。バッシャール・アサド氏が自国民に対する戦争を始め、空軍を動員して25万人を殺害した。無力な民間人に対して破壊力の大きな爆発物、釘(くぎ)で満たしたたる爆弾を投下、化学兵器までも使用した。それでもオバマ氏は何もしなかった。

 初期の段階なら虐殺は避けられた可能性がある。政府軍の飛行場を破壊し、航空機を奪い、ヘリコプターを飛べなくし、全国に飛行禁止空域を設置するのだ。クルド自治区上空に1991年から2003までの12年間、飛行禁止空域を維持してきた。

 内戦の初期、アサド氏は危うい立場にいた。国家の安全保障を担う拠点は、侵入を受け、爆撃を受けていた。高官らは亡命し、将校らは自由シリア軍を組織していた。

 文民、制服組の幹部らの進言にもかかわらずオバマ氏は介入しなかった。オバマ氏は今は、未亡人と孤児への支援をこれ見よがしに訴えるが、こうなったのは、平和創設者のイメージを損ねる可能性があることを無慈悲なまでに拒否してきた結果だ。

 オバマ氏は、「3歳の孤児」の受け入れへ不安を表明した共和党員らを批判した。難民の中にテロリストが紛れ込んでいるかもしれないという知事や高官らの強い懸念には全く耳を貸さなかった。パリ同時テロ実行犯のうちの少なくとも1人はギリシャ経由でフランスに来ていた。

 オバマ政権の当局者らは、完全なデータはないためシリア難民を完全にふるいにかけるのはほとんど不可能であることを認めている。これを受けて、共和党員の多く、民主党員の一部は、新たな審査手順ができるまでシリア人の入国を中断することを求めた。私は、難民の間で区別するのもいいだろうと思う。女性、子供、高齢者を現行の手順で審査し、血気盛んな若い男性には厳しい基準の新たな審査を受けさせるのだ。

 共和党当局者らの懸念は、ごく当たり前のものだ。しかし、共和党大統領候補者らのシリア問題をめぐる討論が、行き詰まっている移民問題へと脱線しないようにする必要がある。それは、中東問題の本質が、オバマ大統領の政策の大失敗ではなく、それほど多くはない難民となり得る人たちだというようなものだからだ。

 テロは世界中で増えている。シナイ、ベイルート、マリ、パリ、ブリュッセルは、テロを受けて閉鎖された。オバマ氏は、シリア政策の失敗を否定し、方針の転換を求める人々を非難した。国務長官は、絵がイスラム教徒の気持ちを害したという理由で、シャルリエブドの漫画家らがいた部屋で銃を乱射したことを、正当とまでは言わないが、その論理的根拠を認めた。

 このような状態が今後も続けば、40年にわたって米国が支配してきた中東は、ロシアとイランの手に渡ることになる。その影響はすでに及んでいる。これが、米国があえて、保護目的の飛行禁止空域を設置しない理由だ。危険過ぎるということだ。ロシアがその空白を埋めた。

 7年間にわたる民主党政権下での外交の大失敗を目の当たりにし、共和党候補者らは逆に、シリア難民に強硬な姿勢を取ることで互いを牽制(けんせい)し合っている。この外国人嫌いの嫌な流れを引っ張っているのは、これまでと同様、トランプ氏だ。あらゆる言葉を駆使して、米国人イスラム教徒の登録を支持し、アラブ系米国人の裏切りに警告を発した。世界貿易センターの崩壊に歓喜する「数多くの人々」の映像がテレビで流れた。シリア難民の受け入れを拒否するばかりか、すでに入国している者を送還するとまで言っている。

 こんなことが考えられるだろうか。見た目ばかりきれいにしつらえたボーイング757に難民を押し込み、政府軍のたる爆弾が降り注ぐ戦場に孤児や未亡人らを放り出すことになる。

 ほかの共和党候補者らもトランプ氏に追随した。イスラム教徒の登録を支持した者はいないが、難民受け入れを完全に拒否するか、キリスト教徒だけを受け入れるという候補者らもいる。反移民感情が強まっている世論におもねろうとしている。

 近視眼的としかいいようがない。共和党の予備選では奏功するかもしれない。しかし、反移民、反外国人、最近では反イスラム教徒、反アラブのレトリックを弄するトランプ氏のような候補では一般投票は戦えない。一方で、米国人の仕事を奪うずるい中国人、米国人女性をレイプする乱暴なメキシコ人がいることも忘れてはならない。

 このまま反移民を唱え続ければ、共和党にとって政治的に命取りになる。ジョン・カシック氏はこの泥沼への転落を強く非難した。カシック氏に続く者はいないのか。

(11月27日)