示唆に富んだ共和党討論会
進む大統領候補の淘汰
トランプ氏は外交でミス
【ワシントン】CNBCの共和党討論会のどたばたは、面白くて目が離せなかった。FOXビジネス・ネットワーク(FBN)の討論会は充実していた。政治について真剣に話すにはもっと準備が必要だったが、努力は実った。
CNBCの討論会は、うまく仕組まれたいたずらのようなもので、内容のない議論もあった。クリス・クリスティー氏とマイク・ハッカビー氏の補助金改革をめぐる短いやりとりがそうだった。片やFBNの討論会は示唆に富んでいた。実のある議論も幾つかあった。ジョン・カシック氏はけんかをしたくてしようがなかった。ドナルド・トランプ氏は、いつもの強気の姿勢でやり返し、カシック氏に「私は計り知れないほどの資産価値のある企業を築き上げた。こんな男の話など聞く必要はない」と応じたこともあった。
まだこれからだが、FBNの討論会で共和党の選挙キャンペーンは余興の段階を終えて、真剣な話し合いが行われるようになってきた。司会者の節度のある、建設的な姿勢によって信頼感が生まれ、候補者らは互いの意見に反対であれ、支持であれ、自身の考えを表現できるようになった。
カシック氏がそうだった。だが残念なことに、現れたのは短気で、自分本位のカシック氏で、本人にプラスにはならなかった。一方、舞台の反対側のランド・ポール氏にとっては最高の夜だった。その勇気は称賛に値する。ポール氏の非介入主義外交は、共和党主流派とはまったく相いれない。マルコ・ルビオ氏が国防予算、介入主義をめぐるやりとりで勝利したのはそのためだ。それにもかかわらずポール氏は、自身の少数派意見を強く主張した。自説を曲げないその勇気をたたえたい。
だが、何より観衆に受けることが重視される今選挙戦で、主義を通すことでは、一桁台を脱することは難しい。ステージの右のポール氏、左のカシック氏は落とし戸に落ち二度と戻れない。6人のファイナリストが残る。
だが6人でなくなる可能性もある。ジェブ・ブッシュ氏にとっても最高の夜だった。有能で安定している。しかし、残念なことにいまだに歯切れが悪い。かわいそうだが、まだまだ続く選挙戦で苦労することになる。
カーリー・フィオリーナ氏は、ステージ上では目立つが、選挙基盤が弱い。タフなフィオリーナ氏は副大統領に最適だ。ヒラリー・クリントン氏に関して男が言えないことを言える。そのことはフィオリーナ氏自身も知っている。
11日の討論会での勝者は、言うまでもなく、ルビオ氏とテッド・クルーズ氏だ。44歳の、雄弁なキューバ系1年生上院議員が共和党候補に選出されたらどうなるだろう。ビル・クリントン氏は1992年にアル・ゴア氏を副大統領候補に選出した。これは、逆転の発想であり、戦略的に素晴らしかった。高齢者と若年者、北部出身者と南部出身者、豊かな経験と野心のようにバランスを取ることはせず、自身と似た相手を選んだ。倍がけだ。ニューズウィーク誌の表紙には「ヤング・ガンズ(若き名手たち)」と印象的な言葉が掲げられ、受け入れられていった。
後はトップを行く2人のアウトサイダー候補者だ。ベン・カーソン氏にとっては散々な夜だった。中国がシリアに介入しているという発言が原因だ。しかし、その前後の二つの発言に救われた。最初の答えで「高校1年生の時の発言について質問されなくて助かった」と先制攻撃をし、最後には、国内の苦難は米国に内在する力で乗り越えられると締めくくった。
トランプ氏はカーソン氏と同様、共和党員の多くを占める反政治的有権者の支持を受けている。現在、共和党有権者のうち半数が反政治的だ。米国の失敗した政治へのカーソン氏の対抗策は、道徳的な力だ。トランプ氏は、あけすけで容赦のない力技で対抗する。
トランプ氏にとっても、それほどいい夜ではなかった。今回も外交政策で失敗してしまったからだ。トランプ氏は12カ国間の貿易交渉、環太平洋連携協定(TPP)には強く反対しているが、TPPについて質問されると、中国の経済的脅威を挙げてTPPへの反対を改めて訴えた。ところがこれを聞いたランド・ポール氏が穏やかな口調で、中国はTPPに参加していないことを指摘した。実際に、TPPの主要な戦略的目的は、太平洋諸国を米国につなぎ留めることで中国を封じ込めることにある。中国のこの地域での覇権の拡大を抑えるためだ。
この討論会では、共和党指名争いの流れに大きな変化はなかった。しかし、淘汰(とうた)は進んでいる。ファインダーを狭めて見ると、討論会のステージ上で見えるのは8人から6人、ついには4人にまで減る。クルーズ、ルビオ、カーソン、トランプの4氏だ。前座の討論会で光っていたクリス・クリスティー氏がこのグループに続く。
参加者らは全員、手の内を見せることを求められた。性格が見え、政策が見えた。それほど熱い議論は見られなかったとはいえ、FBNの今回の討論会でいろいろなことが見え、はっとさせられるようなこともあった。この中の誰かが大統領執務室の主になる可能性がある。
(11月13日)






