クリントン氏指名が確実に
サンダース氏は「退却」
3人の泡沫候補は経験不足
【ワシントン】前にも書いたが、ヒラリー・クリントン氏は、起訴されなければ民主党の指名を勝ち取る。1カ月半前、クリントン氏が倒れ、ジョー・バイデン氏が助けられるというあり得そうにない話が注目されていたころだ。この話が夢物語だったことが、13日の討論会後、いっそうはっきりした。理由は、あの時も今も明らかだ。クリントン氏に競争相手はいないからだ。
クリントン氏の競争相手は3人の泡沫候補と1人の親しみやすく、身振り手振りを交えて話をする、多少解放感のある高齢男性だ。バイデン氏が出馬を考えていれば、もっと真剣に取り組んでいたはずだが、もう終わりだ。
実際に、討論会前でもクリントン氏の支持率はずっと安定している。それはケビン・マッカーシー氏の大失敗で始まった。これでクリントン氏は永遠の「釈放カード」を手に入れ、電子メール問題が出てくるたびにこのカードを巧みに利用した。その手口は完璧だ。間違いを認め、責任を取り、情報を公開するなどと無意味なことを言った上で、こう続けた。「だが、広い視野で見てほしい。あのケビン・マッカーシー氏ですら、党派的な魔女狩りだと認めていた」。私なりに分かりやすく言い替えた。
討論会でバーニー・サンダース氏は、「米国民はあのひどい電子メール騒動にうんざりしている」と語り、疑惑にふたをしてしまった。これで、民主党でこの問題が公式に触れられることはなくなった。一件落着だ。当然ながら一般投票で問題視されるが、ここで話しているのは指名獲得についてだ。
サンダース氏は、クリントン氏の優位を認めることで、潔いという評価を得た。だがそうなるということは誰もが知っていた。サンダース氏は、政治とはこんなものだと考えている。あの発言で、クリントン氏に候補指名をあっさりと譲ってしまった。レオ・ドローチャーの言葉を借りれば、善人はいつもビリということだ。サンダース氏は2位となるがいずれにしても変わりはない。
クリントン氏が討論会で勝ちを収めたのは、このような力学が働いたからだ。指名争いはこれで決まった。クリントン氏の圧倒的優位だ。リードの幅は50ポイントから20ポイントに縮まったが、そんなことは重要ではない。20ポイント差があれば大勝だ。
クリントン氏は依然、嫌な候補だが、ディベートの腕前は大したものだ。機転が利き、機敏で、戦略的で、経験も豊かだ。8年前、オバマ氏と25回、討論している。13日の討論会ではほんの短時間でその場を仕切ってしまった。サンダース氏を予想外の方法で2度も抑えつけた光景は圧巻だった。サンダース氏は何が起きたのかすら分かっていなかった。
クリントン氏はまず、銃規制をめぐって左から攻め、資本主義では右から攻めた。魔法の言葉「小企業もですか」と言っただけだが、サンダース氏はよろよろと退却してしまった。サンダース氏は攻撃的で、派手だが、それほど機知には富んでいない。米国のデンマーク、バーモント州で社会民主主義者として活動してきた35年の間、何をしてきたのだろうと思う。
たった一人で演台に立ち、遠くにいる富豪らを攻撃するのは得意なのだが、クリントン氏一人を相手に敗北した。
だが一つの歴史を作った。どの討論会も重要な一瞬というものがある。この時、討論会後も、場合によっては次回討論会まで語られるフレーズが生まれる。突然飛び出した「ひどい電子メール騒動」という言葉は、今回の大統領選で誕生した最初のフレーズとして、相手候補を勝利に導いたフレーズと、そして後々語られる。
残りの3候補は沈んだままだ。リンカーン・チェイフィー氏の現在の支持率は0・3%。1992年大統領選のロス・ペロー氏の副大統領候補となり、副大統領討論会の始めに「私は何者だ。どうしてここにいる」と述べたジェームズ・ストックデール海軍中将のまねをした。
デビー・ワッサーマン・シュルツ民主党全国委員会議長は、マーティン・オマリー氏らが騒ぎ立てる中で、討論会の経験はわずか6回。あと5回は必要だろうか。13日の夜に決着はついてしまった。第1ラウンドでノックアウトされたら、戦いは終わる。
客観的に見てクリントン氏は見事にやってのけたとは言い難い。弱小候補相手だからだ。クリントン氏は基盤を整え、左からの攻撃に先手を打つために、討論会前に皮肉と言わざるを得ないような対応を取っていた。キーストーンXLパイプラインと、国務長官時代に貿易協定の「金字塔」と発表した環太平洋連携協定(TPP)への支持を取り下げたのだ。
これで討論会はうまく乗り越えられた。しかし、信頼性に問題が生じたことが、一般投票で足を引っ張ることになる。
だがそれはまだ先のことだ。とりあえずはゲームオーバーだ。夏のクリントン氏指名獲得まで芝居じみた戦いが続く。サンダース氏はハネムーンでソ連に行ったというCNNのアンダーソン・クーパー氏の指摘を思い出しながら、討論会を堪能しよう。
(10月16日付)






