核合意は手の込んだ茶番

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

議会避け国連で承認

イランへの制裁は解除へ

 【ワシントン】議会はとうとう、イラン核合意を承認する。だが、これは手の込んだ茶番だ。オバマ大統領のせいで、議会が関与する部分などほとんど残されていないからだ。国連安保理で合意を承認する決議を強引に推し進め、合意の実施に米国が責任を持つことを公式に約束した。議会審議が始まる前のことだ。

 安保理決議によって、10年かけて築き上げられ、イランへの国際的制裁の基礎となる法的枠組みはすべて廃止される。数カ月内に制裁は解除される。

 シナリオはすでにできている。最も重要な核施設の査察をイランの「自己査察」に任せた国際原子力機関(IAEA)が、イランは決議を順守したと宣言する。それを受けて合意が執行され、正式にイランの核開発計画は平和的だと認められる。

 制裁は解除される。イランの聖職者らは、合意に署名した褒美として1000億㌦を得る。経済は復活し、原油輸出は3倍になり、外国企業が大挙して戻ってくる。

 すべて計画通りだ。英外相が先月、取引目当ての企業の堂々たる代表団を引き連れてイランを訪問した。だが、すでに遅かった。イタリアとフランスの外相が、カネに飢えた実業家と石油企業とともにすでに訪問していた。イラン経済は復活する。

 大統領は憲法を尊重するなら、核合意をまず議会に提出すべきだった。条約として提出すべきだった。これは間違いない。戦略的に見ても、地政学的に見ても、近年、これほど重要な合意はない。

 オバマ氏が条約として提出しなかったのは、憲法上、批准に必要な票を得られないことが分かっていたからだ。上院の3分の2には程遠く、単純過半数にも至っていない。ピュー・リサーチ・センターの最新の調査によると、米国人の多くは核合意に反対し、支持・不支持の差は28ポイントもある。

 オバマ氏は憲法を回避するために、ごまかしの交渉をし、議会の一院のわずか3分の1の獲得を目指した。そして実際に10日、上院のわずか42票の支持を得、民主党は議事妨害を行い、少なくとも当面は、上院が合意について表決を行えないようにした。条約なら67票の賛成が必要だ。

 しかしオバマ氏は2カ月前に国連で核合意を国際法とした。なぜ議会での表決を重視すべきなのか。オバマ氏が憲法上必要な手続きを回避したことの違法性を際立たせ、そうすることで、大統領が将来、核合意を撤廃しやすくするためだ。とりわけ、イランがいんちきをしていることが分かったときが重要になる。

 だがすでに時遅しだ。イランは解放される。制裁は解除され、経済は復活する。周辺地域への侵攻とテロ支援に関して定めた条約の条項はない。平和的核開発計画を持つ国際社会の一員として迎え入れられることになる。驚くべきトリックだ。

 イランが国際社会の正当な一員として認められ、イラン外相が自慢げに話したように、国連が取り組んできた核開発問題は解決済みとされ、すべての制限が撤廃される。それまで10年とかからない。オバマ氏が認めたように、イランの核保有までの時間は実質的にゼロになる。すぐに起きる。イランは来年初めにも、平和的核保有国として正式に認められる。

 これはイランの国際的地位という点からすれば革命的なことだ。にもかかわらず、どういう結果になるかについてはほとんど関心が持たれてこなかった。核合意は、イランの核施設を維持するだけにとどまらない。核開発が平和的でないと証明されない限り平和的であるとして認められるため、国際的な支援を受ける権利も与えられる。10項付属文書3に驚くべき条項が盛り込まれており、欧米の専門家は、イランの核開発に専門家を派遣することとなっている。

 具体的には「訓練コースとワークショップ」だ。中でも、「破壊行為」からの保護の方法に関する訓練に注目すべきだ。

 想像してみればいい。米国の国家安全保障局(NSA)とイスラエルの8200部隊が開発したコンピューターウイルス、スタクスネットは長年にわたってイランの核開発を妨害し、遅らせてきたが、そのスタクスネットから欧米がイランを守ることになるのだ。

 ケリー国務長官は、イランの核施設への軍事攻撃については、考えることすらしてはならないとイスラエルにくぎを刺した。イランの指導者は9日、25年以内にイスラエルは消えてなくなると主張したばかりだ。その上、10項付属文書3で、スタクスネット2のような自衛的で非軍事的サイバー攻撃でも、欧米は阻止するためにイランを支援する。イスラエルはそれを知っている。

 42人の上院議員に、この条項について知っているか聞いてみたい。このような合意を平気で承認することがどうしてできるのだろうか。

(9月11日付)