危機に直面するオバマケア

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

800万人が保険解約

レトリックでごまかす大統領

 「オバマ氏、医療保険法成功へキャンペーン」-ニューヨーク・タイムズ紙11月4日

 【ワシントン】オバマケアのウェブサイトが不調だ。数十万人の米国人の保険が解約されている。さらに数百万人が来年同じ目に遭う。この危機的状況にオバマ大統領はどう対応するのか。

 キャンペーンに取り掛かった。

 オバマ氏は4日、草の根支持者に対し「もう一つのキャンペーンに取り組んでいる」と語った。他の演説や集会でも同様のことを語っている。ニューヨーク・タイムズ紙はこれについて「自身が署名した医療保険法を確実に執行するため」のキャンペーンだと書いた。

 レトリックは現実をしのぐという奇妙な信念が、この不思議な行動の元にある。万能クロス「シャムワウ」の巧みなセールストークのように、オバマ氏は全米向けのテレビ演説でオバマケアを再び売り込もうとしている。サイトのことは心配ない、修理するとオバマ氏は言った。その上で、ほかにも方法はあると電話番号800を突然持ち出してきた。それも2度もだ。

 大統領がシャムワウ特売セールを申し出るとは誰も思わなかっただろう。モップを付けて、そのうえオバマケアを1年間無料で届けるとでもいうのだろうか。だが、電話はサイトよりも悪い。電話の相手や、コミュニティーの優しい「案内人」に必要な情報をすべて伝えたとしても、その情報は、不具合の出ている同じサイトに入力しなければならないからだ。

 オバマ氏はこれを知らないのだろうか。オバマ氏の言ったように800番に電話をかけても同じ問題に直面するだけなのに、オバマ氏はこのテレビキャンペーンが成功すると思っているのだろうか。

 それでもオバマ氏は、保険の解約という第2の危機を迎えたとき、まったく同じことをしようとした。

 6日、現実を完全に否定し、言いたいことはまったく変わっていないと言った。「今の医療保険プランがいい人は、そのプランを維持できる。以上」と2009年6月に約束した通りだと語った。

 自身が間違っていたことを認めないばかりか、クリントン元大統領のような言い訳を始めた。あの約束は、ある特定の保険プランだけを対象にしたものだったというのだ。そして今になって、ずっとそのつもりだったと主張している。何ということだ。「以上」という言葉の使い方が間違っている。「以上」と言ったら、それに対する反論も修正も抜け道も脱出口もないということだ。

 そればかりか大統領は、この明らかなうそを認めず、いずれにせよ、私の医療保険専門家が課したプランに従った方がいい、と言い放った。

 しかし、解約通知を受け取った人の多くは、いずれこの主張も間違っていることを知ることになる。つまり、新しい保険プランになれば、保険料は上がり、控除免責金額は大きくなり、今行っている病院には行けなくなる。

 オバマ氏は、解約通知を受け取った何百万人もの人々が、この点に気付かないとでも思っているのだろうか。大手メディアでさえ、保険を解約し、高額で、あまり魅力的でないプランをオバマケアによって押し付けられたという人々のインタビューを何十と報じている。

 現実の世界に住んでいるオバマケア推進者は、最初から個人の保険を解約させるつもりだったのだ。解約させれば「保険市場」に人が集まるからだ。適切で、余計なもののついていない既存のプランを解約させるのは、これらの人々を、必要のない高額のプランに入らせることで、保険料率を引き上げ、その分、それ以外の人々の医療保険に融通できるからだ。

 もっと露骨なオバマケア推進者もいる。このオムレツを作るには、800万個の卵を割る必要があると実際に認めているのだ。800万という数字は、既存の個人保険を解約させられるとみられる人々の数だ。しかし、オバマ氏は空気からでもオムレツを作れるかのような口ぶりだ。

 演説の力を異様なまでに強く信じるこの信念は、オバマ氏の生い立ちから来たものだ。これこそがオバマ氏を出世させたもの、つまり言葉だ。会社を興したわけでも、何かの機関を設立したわけでもない。築いたのはただ一つ、自分自身だ。言葉で人を動かす術だ。2004年の1度の大演説で大統領レベルにまでのし上がった。さらに大演説を幾つも行って大統領になった。

 言葉の次に統治能力が問われている。しかし、カイロ演説は「アラブの春」で完全に粉砕された。ロシアとの「リセット」交渉は、人を見下したロシアの独裁者に何度も邪魔された。医療保険法を成立させるために44回の演説を行ったが、オバマケアは、スタートからつまずき、約束は破られ、危機にひんしている。

 オバマ氏がうそをついていることには驚いていない。ほかにもうそをつく政治家はいる。私が驚いているのは、明らかなうそ、確実に分かるうそをついたことだ。

 誰かがオバマ氏に、見え透いたうそは、無意味であるばかりか、ばかげていると言わなければならない。