イラン核協議の合意と「その後」
国連安保常任理事国(米英仏ロ中)にドイツを加えた6カ国とイラン間で続けられてきたイラン核協議は14日午前(現地時間)、最終文書の「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議はイランの核計画の全容解明に向けて大きく前進した。
最終文書は、イランに核兵器製造の道を閉ざすことを至上目標とした欧米側と、国際社会の制裁解除を最大課題と位置付けてきたイラン側の双方の妥協の成果だ。イランのザリフ外相は同日、ウィーン国連内の共同記者会見で、「合意内容はウイン・ウインだ。完全ではないが、新しい希望の道を開く歴史的な瞬間」と評している。今後の焦点は、「共同行動計画」に基づき、国際原子力機関(IAEA)が主導する検証と監視作業に移る。
IAEAは定例理事会の度に、「イランの核計画が平和目的であると実証できない」と主張し、イラン側の全容解明への協調不足を指摘してきた。特に、テヘラン郊外のパルチン軍事施設への査察はイランの核問題の解明の鍵と見なされてきた。同施設で核軍事転用の為に起爆実験が行われた疑いが囁かれてきたからだ。通称、「軍事的側面の可能性」(PMD)の問題だ。
IAEAが同日公表した報道声明によると、IAEAとイランは「行動計画表」(ロードマップ)で合意したという。それによると、パルチン施設を含むPMD関連施設へ査察を実施し、今年末までにPMD問題の解決を目指すという。
ただし、イランのPMDが指摘された直後、テヘラン側は同施設から大量の器材を運び出す一方、施設内をアスファルトで舗装するなど証拠の隠滅を図ったという情報が流れたことがある。それだけに、パルチン軍事施設の査察に過大の期待をもつことは得策でないだろう。むしろ、同施設の査察を認可するという譲歩を演出するために、イラン側は頑迷に査察拒否をこれまで表明してきた、という疑いすら聞かれるからだ。換言すれば、イランはパルチン施設の査察承認という譲歩を欧米側に高く売りつけ、制裁解除を手に入れた、と受け取れるのだ。
イラン側は「パルチン施設は軍事施設だ。どの国が第3者に自国の軍事施設の査察を認めるだろうか。IAEAとの間で締結した核保障措置協定(セーフガード)には軍事関連施設の査察など含まれていない」と説明し、軍事施設の査察を要求する欧米側を「主権国家への蹂躙」と反論してきた経緯がある。
イラン外交官は、「わが国は核兵器を製造する意図はない。大量破壊兵器(原爆)はイスラムのコーランの教えにも反する」と頻繁に語ってきた。その内容が追認されるためにも、イラン側はIAEAの査察要求に積極的に応じるべきだろう。
イランの国民経済は国際制裁下で停滞し、国民は生活苦に悩み、希望を失ってきている。制裁がこれ以上長期化すれば、国内の政情悪化にもつながるという判断がテヘラン側にあったはずだ。その意味で、ウィーンの核協議では、イラン側が6カ国以上に今回の合意を願っていたはずだ。
興味深い点は、ウィーンの核協議で後半、国連の対イラン「武器禁輸」、「ミサイル禁輸」制裁の解除が急浮上し、最大の対立点となったことだ。その背後に、ロシアのプーチン大統領の画策が感じられる。イランの核協議で合意を外交成果としたいオバマ米政権に対し、プーチン氏流の嫌がらせではないか。なぜならば、「武器禁輸」解除は本来、イランの緊急テーマではないからだ。テロリストに渡る危険性のある武器・ミサイル禁輸制裁の解除に対し、米国は強く反対してきた。最終合意では、武器・ミサイル禁輸制裁は維持されることになっているという。なお、イランが合意事項を履行しない場合、「65日内に制裁を再発効できる」という。
イラン核協議を主導した米国はこの機会を利用し、イランとの信頼関係の醸成に向かって積極的な外交を重ねていくべきだ。イランとは核問題だけではなく、シリア、イラク紛争問題、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)の対策などで、連携が願われるからだ(「『核』は外交文書では消滅しない」2015年7月10日参考)。また、イラン核協議の合意を警戒してきたイスラエルやサウジアラビア両国の出方にも注意を払わなければならないだろう。