対「イスラム国」でクルド支援を

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

戦う意志ないイラク軍

無駄だった中央政府支援

 【ワシントン】イラクとシリアで新戦略が必要な時だ。まず、これまでの境界線はなくなったことを認めなければならない。シリア、イラクが元の国に戻ることはなく、サイクス・ピコの地図はもう過去のものだ。

 これを政策として公式に認めることは難しいかもしれない。植民地支配による境界線は、どんなに異常な引かれ方がされていようと維持すべきだという原則に反するからだ。もっといい方法があったはずであることは誰もが認めている。それでもメソポタミアのバルカン化は避けられない。

 なぜなら、すでに進行しており、後戻りはできないからだ。例えばイラクでは、次から次に惨劇が起きているが、それは、イラクの中央政府が党派的で、分裂し、イランの保護下にあるにもかかわらず、米国があえて対イラク政策の中心に据え、軍事支援をすべてこの中央政府を通じて行うようにしているからだ。

 ファルージャ、モスル、ラマディを見てみる。イラク軍はまるで頼りにならない。敵を見ると、武器を残して逃げる。統合参謀本部議長は「イラク治安部隊はラマディから追い出されたのでなく、ラマディから出ただけだ」と語った。米国防長官は「イラク軍は戦う意志を見せなかった」ことを認めた。

 ずっと訓練を続けることはできる。問題は戦う意志だ。戦いたくないのに、どうして戦わなければならないのか。率いている司令官は、腐敗し、党派的で、無能だ。

 どうすればいいのか。強い戦う意志を持っている友軍への支援に注力すべきだ。まずはクルド人だ。戦う意志と技術を持ち、大成功を収めてきた。今年だけで500以上のキリスト教徒とクルド人の町を「イスラム国」から奪還した。しかし、クルド人はイラク軍と違い、武器がひどく不足している。バグダッドの中央政府を通じて武器を供給しているため、クルドに届く武器はほんのわずかだからだ。

 クルドは今週、さらに戦果を上げた。米軍の航空支援を受けてシリアのクルド人は、イスラム国が支配していた戦略の要衝テルアビヤドを制圧した。この町は二つの意味で重要だ。まず、イスラム国が首都とするラッカとトルコの間の補給路上にある。ここを通じてトルコから戦士、武器、物資が流入する。また、テルアビヤドは「(イスラム国が)呼吸する肺であり、ここを通じて外の世界につながっている」(クルド人司令官、ハキ・コバネ氏)。

 さらにテルアビヤドは、シリア北部の孤立したクルド人地域を、イラクのクルド人地域のような地域につなぐ役割を果たしている。つまり、この領域は以前から提唱されてきたシリアの「安全地帯」として機能することが可能となる。ここを起点にイスラム国、アサド政権と戦うことができる。

 さらに、別の戦線からいいニュースが届いた。ヨルダンの訓練と支援を受けた自由シリア軍「南部戦線」が先週、シリア政府を、東部ダラア県の最後の主要基地から駆逐したのだ。ダマスカスから100㌔と離れていない。

 これらの勝利から米国の新戦略が見えてくる。ほぼイランに支配されているイラク中央政府への時代錯誤的な忠誠を捨て、イラクのクルド人に直接、昼夜を問わず、ベルリンでしたような空輸による補給を開始すべきだ。シリアでは、拡大を続けるクルド人安全地帯への訓練、装備の補給、航空支援を強化すべきだ。自由シリア軍南部戦線にもヨルダンを通じて、支援を行うべきだ。

 同様に、友好的なスンニ派部族にも直接支援を行うべきだ。スンニ派部族の「アンバルの覚醒」は、ペトレイアス大将の増派の見事な支援を受けて、2006年から07年にイスラム国の前身「イラクのアルカイダ」に完全に勝利した。問題は、スンニ派が再び、米国を信用してくれるかどうかだ。オバマ政権は11年に米軍を撤退させ、スンニ派部族を見捨てたことがあるからだ。

 イラク軍に関しては、形式的な支援にとどめるしかないが、できることはせいぜい何とか封じ込める程度だ。最終的にはイランが引き受けることになる。とても納得のいくものではないが、11年にイラクの支配的な地位を放棄したことから考えれば、この辺がベストだろう。

 当時、イラクは国家として機能していた。それはすでに過去のものになった。そのイラクを復活させるために米国の国庫を消費し、血を流すことはすべきでない。今すべきことは、イスラム国を駆逐し、アサド政権を解体することだ。それには米軍の侵攻は必要ない。現状をしっかりと把握し、現地の一部の友好勢力に大規模な支援を送ることだ。

 カーター国防長官は17日、今秋までに2万4000人のイラク兵を訓練するという目標は達成できないと証言した。その理由は、新兵不足だ。イラク人は、軍に入りたくないようだ。そのため1万7000人不足している。

 全くの無駄骨だ。イラク中央政府を支援するふりをする必要があるなら、それでいい。しかし、真の戦略は、中央政府を避け、本当の友好勢力の戦いを支援することにあるべきだ。

(6月19日付)