イラン核交渉に重大な問題

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

核開発認める暫定合意

「期限付き」受け入れた米

 【ワシントン】なぜサンセット法(時限立法)なのか。

 イランとの核交渉のニュースには問題があった。イランは「濃縮の権利」を認められ、数千台の遠心分離器を維持し、作動させることが可能だ。アラクのプルトニウム原子炉の建設も続けられる。だがイランは、国際原子力機関(IAEA)の査察を徹底的に妨害しており、IAEAが19日に「イランに、公表されていないミサイル搭載可能な核が存在するのではないか」と懸念を抱いていることを報告したばかりだ。

 大変なことだが、さらに悪いことがあった。23日、「サンセット法」の情報がリークされるとオバマ大統領は、核開発計画への制限はすべて期限付きとするというイランの要求を受け入れた。制限が失効すると、イランのイスラム聖職者らは自由に核開発を開始し、好きなだけウランを濃縮することができるようになる。

 制裁は解除され、制限も取り除かれ核開発が認められる。イランは、国際社会に再び受け入れられる。オバマ氏は、昨年12月のインタビューで、イランは「成功した地域の大国」になるだろうと語った。数年から10年ほどおとなしくしていれば、うまくいきそうだ。

 この合意が交わされれば、イランは核爆弾を保有することになるだろう。イランにとってはバラ色の未来だ。貿易は再開され、石油生産は進み、経済は回復して国外から投資が流れ込む。

 その一方でイランの大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発計画は全く制限を受けずに進められる。これは交渉の議題にさえなっていない。イランはなぜICBMを開発しているのだろうか。ダイナマイトの束を飛ばすためにICBMを造る人はいない。目的はただ一つ。核弾頭を運ぶことだ。イランがリヤドやテルアビブを攻撃するのにICBMは必要ない。ICBMは大陸をまたいで使用されるものであり、米国も標的となり得る。

 このような合意が交わされれば、核拡散防止も終結することになる。ならず者国家が世界を脅迫し、不法なウラン濃縮を続け、産業レベルの濃縮計画を無制限に実施できることを世界が認めると、核拡散防止条約(NPT)は無意味となる。この地域で核が過剰に拡散すれば、エジプト、トルコ、サウジアラビアなどの国が自衛のために核保有を望むようになるのは不可避だ。

 オバマ氏は、世界から核がなくなることを望んでいたのではなかったのか。就任宣誓の数カ月後、プラハに行ってそう宣言した。その後、50カ国・機関が参加する核安全保障サミットを主宰した。サミットは成果の一つとして、カナダにウラン濃縮を放棄させたことを挙げている。

 オバマ氏は、カナダの脅威を取り除いた上で、イランの問題に取り組んだ。イランの宗教指導者に提示される案は、ならず者政権の中でも最も悪質なイランの核保有の正当性について話し合うためのものだ。反米感情が強く、聖戦主義を深く信奉し、アルゼンチンやブルガリアなどにテロリストを差し向けている。さらに、国民に向けてたる爆弾を投下しているシリア政権を操っている。おまけにイランは今週、核交渉の真っ最中に、ホルムズ海峡近くで、これ見よがしに米空母の模型への攻撃を行った。

 政府の擁護者は、代わりとなる方法はあるのか、戦争したいのかと言う。

 オバマ政権の常套(じょうとう)手段だ。適切でないことが分かり切った道を提示して、選択を迫る。融和か戦争かというわけだ。

 どちらもいいとは言えない。だが、オバマ政権が提示している案は最悪というべきだ。イランは核爆弾保有への障害がなくなり、制裁は解除され、圧力はかけられなくなり、国際社会での正当性も得られる。

 第3の道がある。イランの核開発計画を止めないのなら、大盤振る舞いは必要ない。圧力をかけ続け、制裁を継続すべきだ。本当なら強化すべきところだ。いずれにしても、イランが屈服し、交渉のテーブルに着いたのはこれまでの制裁のためだ。これは原油価格が急落する前のことだ。原油価格の急落で、強化された制裁の効果はさらに高まったはずだ。

 議会はこの点を重視している。低価格の原油とともに、制裁によってイラン経済を不安定にし、聖職者支配の政権を脅かすことができる。これは手始めにすぎない。その上で、制裁緩和に向けた交渉を開始するのだが、スタート地点はかなり違う。ウラン濃縮はなしというところだ。どうしてもというなら、メンツを守るための象徴的なごくわずかの遠心分離機ぐらいならいいだろう。

 そして、サンセットにはしない。

 スタート地点は、ウラン濃縮の停止を求める国連安保理の6決議だった。今提示されているものは、サンセット法失効後、イランの聖職者らに強固で、産業レベルの、国際的な制裁の対象となっている核開発計画の推進を認める暫定合意だ。

 この合意を見れば、キューバとの国交正常化もまともに見えてくる。ウクライナの停戦が素晴らしいものに見えてくる。われわれは今、大敗北の瀬戸際にいる。歴史はそれほど甘くはない。

(2月27日)