歪められた民主党の議会報告

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

拷問支持した民主党員

尋問関係者の証言は取らず

 【ワシントン】上院情報委員会の民主党議員らが作成した中央情報局(CIA)の尋問に関する報告は基本的に、ブッシュ前政権下での戦争犯罪に関してCIAを非難している。一方、報告は序文で、9・11後、衝撃が走り、「恐怖が蔓延(まんえん)した」と指摘しており、ファインスタイン委員長はいくらかの温情を示したようだ。

 このようなことはよく指摘され、オバマ大統領自身も触れたことがある。つまり、パニックになり、頭が混乱した結果、倫理的な感覚が失われ、大変な判断ミスをしてしまったということだ。その結果は報告に記されている。このようなことは二度と起きてはならないということだ。

 ブッシュ政権は、一時的な狂気によって防衛行動を取った。親切な指摘だが、どれも仮定にすぎず、意味がない。9・11後、次の攻撃が行われる可能性が十分にあり、阻止するためにあらゆる手段を尽くすべきだと考えることは当然の状況だった。実際に、CIA、政府、議会指導部、米国民も同様の考えだった。

 アルカイダは、その前の3年間、米国の標的に4回の攻撃を仕掛け、成功させた。攻撃のペースは早まり、規模も格段に大きくなっていった。そこに、出どころの分からない致死性の高い炭疽(たんそ)菌による攻撃が起きた。アルカイダが大量破壊兵器を手に入れようとしていたことは知られていた。

 米国は不意打ちを受け、原因を探るため9・11委員会を設置した。手法、組織の構成、目的、計画など、敵に関する情報はほとんどなかった。倫理的な感覚の喪失などなかった。ただ、国家として、攻撃が再び起きたり、激化したりするのを止めるためにはどうすればいいかを知るためにできる限りのことをしただけだ。ファインスタイン氏は当時、「自己を守るためにすべきだと以前から考えていたことを実行すべきだ」と語っていた。

 当時、下院情報委員会の有力委員だったナンシー・ペロシ氏は、尋問計画について説明を受けていた。これにはいわゆる拷問の手法も含まれる。ほかの情報委員会の幹部も同様だ。当時、同委の委員長だったポーター・ゴス氏は「CIAが何をしているかは知っていた。CIAを超党派で支持し、その活動に必要な予算も提供した」と記していた。

 上院情報委員会副委員長だった民主党のジェイ・ロックフェラー氏は2003年に、ハリド・シェイク・モハメド容疑者を、拷問が行われることが分かっている国々に引き渡すことについての質問に対して、「モハメド容疑者に関しては、どんな選択肢も排除しない」と答えていた。

 この「代理拷問」を支持したことに関して批判はなかった。つまり、民主党は当時、拷問に対し少なくとも反対しなかった。にもかかわらず、今になって非難するのは、恥知らずとしか言いようがない。しかも、国家的な緊急事態では、特別な措置が必要となるという考え方がほぼ受け入れられていたことを示している。

 実施段階で、虐待、行き過ぎた行為、不始末、ひどい間違いがなかったというわけではない。2人の容疑者が拘束中に死亡しており、意図的なものではないにしても許されるものではない。さらに、テロ容疑者への拷問を、良心に照らして受け入れられないと完全に否定することは、偽善的であり、事実にも反するという。

 民主党は主張を明確にするために、民主党員だけで作成した報告に、拷問に関与した人々、批判を受けている人々からの証言を入れていない。完全に一方的な訴追準備書類となっている。面接も、聴取も、発言も一切ない。

 この点に関して委員会は、司法省の調査が並行して進められていたため、委員会での面接は避けたと言い訳をした。司法省の調査は2012年に終わっている。報告が作成されたのは14年12月だ。なぜ、その間に証言を取らなかったのだろうか。司法省が調査中であったとしても、3人の歴代CIA長官やその他の数多くの職員が証言可能だった。どうして証言を取らなかったのか。

 答えは、委員会の民主党員が、矛盾のない起訴状を作成できるようにするためだ。そうしておけば、例えば、この拷問計画全体が間違いであり、重要な情報は一切引き出せなかったと宣言できる。だが、これは、関与した重要人物のほぼ全員が否定している。

 ブッシュ政権はどうすべきだったというのだろうか。グラウンド・ゼロの廃虚から煙が立ち上る中、控えめな実験で優しい尋問を行い、次の攻撃が起きるかどうかを待つべきだったというのだろうか。

 攻撃を受けた国家は、上品な倫理の実験を行う研究所ではない。国家としての信頼を守らなければならない。どんな手段を取ってでもやり遂げねばならないし、脅威に対抗しなければならない。

 そのためにブッシュ政権の指示を受けて、議会指導部もそれを知った上で、CIAは激しい実験を行った。できることはすべてやった。うまくいかないこともあり、残虐であったこともあり、間違っていたこともあった。

 だが、これは功を奏し、米国の安全は保たれている。