ハマス支援する米国務長官
エジプト停戦案を妨害
親米アラブ諸国が連帯へ
【ワシントン】ケリー国務長官は、停戦外交をめぐってイスラエルの左派、右派、中道全勢力から激しく非難されている。だが、それは一部にすぎない。もっと重要なのは、パレスチナ自治政府をはじめとする米国のアラブ・パートナーの動揺だ。アッバス議長は、ケリー氏がパリに行き、ハマスを支持するカタール、トルコと、自治政府、エジプト抜きで交渉することに驚いている。
交渉は、エジプトの停戦案を損ねるものだ。イスラエルはこの停戦案を受け入れ、ハマスは拒否した。自治政府高官はアラビア語日刊紙アシャルク・アウサトで「ケリー氏は、自身の計画を押し通すことでエジプトの停戦案を破壊した」と指摘した。この停戦案は自治政府も支持した。
さらに悪いことがある。この案は、アラブ連盟が支持し、とりわけサウジアラビアは高く評価した。カタール以外のアラブ諸国はどの国も、解体とは言わなくても、ハマスが弱体化するのを望んでいる。アラブ諸国が支持した停戦案は、戦争を開始したハマスの要求の一切を否定したが、ケリー氏がパリから持ち帰った仲裁案は事実上、ハマスの要求をすべて認めていた。
そのためケリー氏は国内から激しい批判を受けた。中でも、無党派のコラムニスト、デービッド・イグナチウス氏はケリー氏の仲介は大失敗だと酷評した。
ケリー氏は、ハマスがロケット攻撃を行うのはイスラエルを破壊するためでなく、アラブ内での孤立を解消するためだという戦略的現実を完全に見落としている。カタール・トルコ和平案にはこれらが見事に盛り込まれている。ハマスの過激主義によって、ハマスとほぼすべてのアラブ諸国との関係は遠のいてしまった。
エジプトは断絶し、ガザを封鎖した。ハマスがムスリム同胞団を支援し、シナイ半島でのエジプト兵への攻撃を支持したからだ。
ファタハはパレスチナ自治政府の主要部分を占め、ハマスにとっては宿敵だ。ハマスが2007年の政変でガザを支配した時、ガザ地区のファタハメンバーは脅され、追い出され、殺された。
シリアではハマスは受け入れられていない。反政府勢力を支持しているからだが、以前はシリアに本部を構えていた。
ハマスは、ヨルダン、サウジアラビアなど湾岸諸国と敵対している。これらの国々はハマスをイスラム主義組織の一角であり、比較的穏健な親西側アラブ諸国の脅威と考えている。
ケリー氏は、アラブ連盟がエジプトの停戦案を支持していたことを理解していないようだ。激化したこの戦争の後もハマスが生き延びることができなくするためのものであり、実施されれば、ハマスを弱体化させ、孤立させていた。
ケリー氏はなぜ、国内にいて、エジプト・アラブ連盟案への明確な支持を表明しなかったのか。その代わりに、パリに飛び、ハマス勝利のための案をイスラエル政府に突き付けた。つまり、エジプトの封鎖を解き、イスラエルとの境界線を開放し、大量の外貨を提供して破産寸前のハマスが支払えない4万3000人もの公務員の給料を支払うことを提案した。
イスラエル、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの湾岸諸国、パレスチナ自治政府など穏健な親米国は、イスラム過激派が無力化され、おとなしくなることを願っている。これらの政府間に反ハマスで連帯ができようとしており、米国の利益はこれらの国々を支持し、連帯を強化することにある。
ところが当の米国務長官はそう思っていない。ハマスが実効支配するガザについてケリー長官はパリでこう言った。「パレスチナの人々が現状が続くと思う限り、停戦はできない」。ならばどこを変えるべきなのだろうか。ケリー長官は、ガザの人々は「物資が出入りし、…現在の制限された生活から解放される」べきだと訴えた。
しかし、この「制限」が課され物資が出入りできないのは、ハマスが10年間にわたって、物資をイスラエルに戦争を仕掛けるための武器を購入したり、製造したりするために使ってきたからにほかならない。
イスラエルは残忍で、学校や病院に必要な十分なコンクリートの搬入を許さないと非難されていたことを覚えているだろうか。このコンクリートが何に使われたかはもう分かっている。隣接するイスラエルの町に侵入し、民間人を殺害するための大規模なトンネル網を作るために使われたのだ。
封鎖を解除すれば、大量の武器、ロケット、ミサイルの部品、テロのための装備がハマスに渡る。米国の国務長官が、ハマスは「それ」を手に入れなければ停戦できないと訴えるというのはどういうことだろう。
その上、ハマスは依然として、イスラエルの都市を意図的に狙ってロケット弾を発射している。これは、厳密に言えば戦争犯罪だ。
どのような意図があろうと、ケリー氏はハマスの戦争犯罪を正当化したことになる。ハマスは米国がテロ組織に指定している。アラブのほとんどの国々がハマスの後退を望んでいる。そのハマスの言い分を国務長官が支持することは、戦略的大失敗であり、道徳的恥辱だ。