党と自己の名誉のための政治
世界から後退する米国
有名無実の「保護する責任」
【ワシントン】オバマ大統領は、陸軍士官学校ウエストポイントで大演説をし、自らの外交政策がいかに優れ、慎重に練り上げられているかを訴えるなら、その前にまずリビアの米国人を退去させるべきだった。
リビアは言うまでもなく、オバマ氏の介入政策のモデルだった。計算され尽くした軍事介入として、全米でテレビ放映された演説で最新の外交政策ドクトリンを宣言する中で美辞麗句を並べ立て高らかに宣伝された。このドクトリンとは「保護する責任」だ。
略して「R2P」と書かれるが、もうこの言葉を聞くことはあまりないだろう。シリアの内戦で5万人以上の民間人が、米国のいかなる保護も受けられず殺害されたのだから仕方がない。この点に関連して、リビアについてはあまり大きく報じられることはないが、現在は混乱の中にあり、ジハード主義者らが闊歩(かっぽ)し、米国務省は国外に出るよう米国人に促している。
ウエストポイントの演説でも、保護する責任はあまり聞かれなかった。大統領は、極端な孤立主義でもなく、無鉄砲な介入主義でもない、その中間で国をうまく誘導したと自画自賛したが、まるで陰気な架空の世界の話のようだった。安全保障についての言い古されたジョークとほとんど変わらない。政策Xに関わっている大統領補佐官が、次のような選択肢を記したメモを提出する。
選択肢1 全面核戦争
選択肢2 一方的な降伏
選択肢3 政策X
オバマ氏の言うような孤立主義は、どこの世界にも存在しない。ランド・ポール氏でも全面的な撤退はしない。議会のハト派の左派ですら、ナイジェリアに無人機を送るよう求めた。
オバマ氏の言う介入主義者は「米国が弱いと見られないようにする唯一の方法は軍事介入と考える」人々と、おどろおどろしく説明されている。一方で勇敢なオバマ氏は、「すべての問題が軍事力で解決できる」という考えを拒否する。
「すべての問題が軍事力で解決できる」と言う人がいたら教えてほしい。
オバマ氏は最近、ウクライナについての質問に対し「どうして誰もが、そんなに軍事力を行使したがるのか」と憐(あわ)れむように答えた。実際には軍事力の行使を訴えた人などいない。実際に人々が求めたのは、みすぼらしい装備のウクライナ軍への軍事援助だ。
暫定首相が3月に米国を訪れた際に求めたのはそれだった。だが米国は拒否した。2カ月後、ペトロ・ポロシェンコ新大統領が米国にまず求めたものは軍事援助だった。決して派兵ではなかった。
シリアも同様だ。化学兵器の使用をめぐって軍事攻撃の瀬戸際まで行ったのは、オバマ氏を批判する人々ではなく、オバマ氏自身だった。だが、その後、立ち消えになってしまう。オバマ氏に批判的な人々はオバマ氏に、人数でも兵器でも劣る反政府組織に訓練や装備で支援するよう求めてきた。オバマ氏はようやく、これを受け入れる可能性を示唆し始めた。
3年がたち、クサイル、ホムス、ダマスカス郊外はすでに政府が奪還した。戦闘はずっと、ロシア、イラン、ヒズボラの支援を受けるアサド政権が圧倒的に有利に進めてきた。その間オバマ氏ははっきりした行動は取らなかった。間もなく大統領選が行われ、アサド大統領が勝利する。
オバマ氏は、米国がいかに没落しているかに気が付いていないようだ。米国の低迷は、歴史を読み誤ったか、党派政治が原因だと主張する。問題は、批判のほとんどが、国外から来ていることだ。米国の党派政治にはまったく利害のない米国の同盟国から来ていることだ。オバマ氏がワルシャワからカブールまで、何カ所も放棄するのを見て、自国の安全が心配になっているのだ。
オバマ氏がアフガニスタンに軍を残留させることを表明し、「これまで犠牲を払ってきた。そうして勝ち取ってきたものを守りたい」と語った時、世界はどう思っただろうか。かと思うとすぐに、駐留米兵を1万人に削減し、どのような状況になろうと決められたスケジュールに従って2年以内に完全撤退すると語った。
完全撤退は、「勝ち取ってきたものを守りたい」という言葉とは矛盾する。多大な犠牲を払って得たものを失いたくないのなら、なぜ2014年以降、無条件に削減するのか。なぜ16年までに完全にゼロにするのか。
その理由はおそらく、戦闘の真っただ中の12年にアフガン増派を終わらせたのと同じだろう。11月の選挙だ。16年のアフガン完全撤退は、民主党にとって有利に働く可能性がある。オバマ氏はまだ大統領職にあり、歴史に輝かしい功績を残すことができる可能性も出てくる。
大国が戦争と平和の問題をめぐる決定を、一つの党、一人の男の名誉のために下していいのだろうか。ウエストポイントの演説にしても、オバマ氏の後退の外交政策にしても、驚くことばかりだ。






