悪用される政治献金者名簿

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

反対勢力追及の道具に

完全開示ハラスメントにも

 【ワシントン】企業献金をめぐる議論は決して終わらない。理由は簡単だ。議論を行う両者が恩恵を受けているからだ。

 まず、当然ながら、お金で発言力を増すことができる。ほとんどの人々にとって政治家や団体に献金することは、発言力を増す最も有効な方法だ。だが、驚くべきことに、論説委員や現職政治家らはこのような主張を真っ向から否定する。大勢の読者や聴衆をすでに持っている人々であり、独占状態が下層の大衆や成り上がりの金権政治家に浸食されるのが嫌だからだ。

  その一方で、当然ながら、お金は腐敗を招く。全米の刑務所は、お金と引き換えに便宜を図った市長、議員、判事らが顔をそろえている。知事がいることもある。しかし、明確な見返りとはいえず、違法とまではいかない影響力行使ということはある。選挙資金の献金は、そのラインに近づいても、越えることがないよう慎重に計算され、実行される。しかし、お金は現実を曲げることがある。大口献金者に普通の市民にはない権限が与えられるという不公正がまかり通っているのは確かだ。

 政治献金を制限する法律が幾つも作られるが、必ず抜け道があり、それをふさぐために何度も修正されるということがずっと繰り返されてきた。

 長い間、シンプルで手際よく、見事な解決方法が取られてきた。制限はない、だが完全に公開するというものだ。

 水門を開けて、額の大小にかかわらずお金が動くようにし、互いにチェックし合い、バランスを取る。透明性を確保することで、不正を防止する。誰にいくら渡ったかが分かっていれば、贈る側と、受ける側の腐敗した関係を見つけることができ、必要ならば告訴することもできる。

 ずっとこう考えてきた。だが、今は違う。献金者名簿が、腐敗をあぶり出すためでなく、違う考えを持つ市民を追及し、告訴するために使われ得ること予測していなかったからだ。このような使い方をすれば、完全開示そのものが腐敗を生むことになってしまう。

 今や献金者名簿は、敵対者名簿作成への誘因となっている。ブレンダン・アイク氏がそのいい例だ。アイク氏はモジラ社のCEO(最高経営責任者)に就任したものの、その6年前に同性婚の禁止を求める住民投票に1000㌦を寄付していたことが明らかになり、辞任を余儀なくされた。

 活動家らは、この「提案8」への献金者のブラックリストを作成し、献金者らを追及した。それによって実際に、提案が承認されると間もなく、サクラメントにあるカリフォルニア・ミュージカル・シアターの芸術監督とロサンゼルス映画祭の監督が辞任に追いやられた。

 住民投票で、汚職以外の問題にこの透明性が悪用されたことは明らかだ。誰も汚職はしていなかった。住民投票を支持することは、個人の考えを表明することにすぎない。ここでは、完全開示が悪用され、ハラスメントを誘発した。

 完全開示自体がハラスメントとなることもある。内国歳入庁(IRS)の不祥事で、政治組織の数多くの会員が、個人情報の非合法な公開などの嫌がらせを受けた。また、2012年の大統領選でオバマ陣営のウェブサイトに、ロムニー陣営の8人の大口献金者の名前が掲載され、「信頼できるとはいえない経歴」を持つ人々と主張されたこともあった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のキンバリー・ストラッセル氏によると、アイダホ州のビジネスマン、フランク・バンダースルート氏は、背中に蛍光塗料で標的が描かれていたという。バンダースルート氏は間もなく、何回も監査を受けることになり、IRSの監査も2回受けた。

 クラレンス・トマス連邦最高裁判事は、「市民連合」裁判でただ一人、情報開示の条件に反対し、米国民は「政治演説に関わった代償として、死の脅迫を受け、キャリアを失い、資産が破壊、破損され、事前に脅迫の警告書を受けるべきではなく、憲法修正第1条の保護の主要対象になるべきである」と主張した。

 実際に、完全開示に対しては1958年にすでに慎重な見方が出ており、最高裁はこの年、「全米黒人地位向上協会(NAACP)」が会員名簿を開示した場合、迫害を受けることが確かであり、NAACPは会員名簿を州に渡す必要はなかったとの判断を下している。「本法廷は、加入する自由と加入者のプライバシーの間に重要な関連があり、…とりわけ、反体制的な考えを持つ団体に関してはこれが重要であることを認める」

 時代も、標的も違うが、氏名や名簿を公表する行為は続き、また同じことが行われようとしている。今回は、ソート可能なネット上の献金者名簿が武器だ。

 今回の最終的な犠牲者は、完全開示そのものだ。考えを表明することで個人攻撃を受ける場合、透明性よりも、政治的に善良で、自由な表現を優先しなければならなくなる。

 これは、全体から見れば損失だ。無制限の献金と完全開示は、選挙資金が抱える矛盾を解決する合理的な方法だ。しかし、政治をめぐる他の問題でもみられるように、狂信者の手によって破壊されてしまった。残念なことだ。