米国で拡大する新全体主義

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

反論を封じ込める左派

同性婚は「解決済み」と主張

 【ワシントン】2カ月前、11万人以上が署名した嘆願書がワシントン・ポスト紙に届けられた。地球温暖化に疑義を呈する記事を報じないよう求めるものだ。嘆願書が届いたのは、温暖化は定説ではないとした私のコラムが掲載される前の日だった。

 コラムは予定通り掲載された。しかし私は、この不寛容な態度に勇気づけられた。左派の思想扇動が新局面に入り、これまでのように議論に勝つことよりも、議論そのものをやめさせて、あらゆる反対意見を封じ込めようとしているという私の主張が裏付けられたからだ。

 このようなやり方を言葉で表すと、全体主義ということになる。議論は抑えられ、沈黙することを拒否する者は深刻な結果を負うことになる。社会的に排斥され、職場から追放される。

 この全体主義が、上から課せられることもある。合衆国大統領が地球温暖化の科学は「解決済み」と主張した時がそれだ。反対する者は誰もが「反科学」のレッテルを張られる。よくても「否定論者」だ。否定論者という言葉はもともと、憎悪の念を掻(か)き立てる狂気じみたホロコースト否定論者のことを指すが、ここでは、温暖化に否定的な人々を中傷する言葉として慎重に選び出された。

 先週、もう一つ突発的な出来事があった。同性婚だ。左派の心を捉える最新のテーマだ。地球温暖化の科学は解決済みと言うのと同様に、同性婚の道徳的、思想的価値もまた自明だという。

 これに反対する人は偏狭以外の何物でもなく、人種差別と変わらないという。反対する人々も同じように、私生活でも職場でも、脇に押しやられ、白眼視され、無視されるべきだというのだ。

 例えば、モジラのCEO(最高経営責任者)、プリンダン・アイク氏は、結婚を男女間のものと定義する「提案8」を6年前に支持し、寄付していたことが明らかになると、圧力がかかり、就任後わずか10日で辞任した。

 だが、どうしてアイク氏がこの手の込んだつるし上げの犠牲者にならなければならないのか。提案8は、600万票の支持を得て承認された。600万人のカリフォルニア住民が、伝統的結婚に「特別な地位を与える」という犯罪を犯し、アイク氏に同調したというのだ。バラク・オバマ氏も同様だ。この年にオバマ氏は、キリスト教徒としての信念から同性婚に反対すると言い切った。

 しかし、この新時代では、同性婚反対はまさに偏狭であり、この理論で行くと、2008年に左派の熱狂的な支持を受けてホワイトハウスに入ったオバマ氏も偏狭な価値観を持つ人物ということになる。

 どこまでもばかばかしくて、解釈する価値もない。ここに論理はない。あるのは単なる思想的偏見であり、特定の課題に関して何が何でも議論させない新全体主義だ。

 この強制された調和という魔法円以外にも左派が取り入れようとしている政策がある。「女性への戦争」とされているものへの抵抗だ。性差別と同じだということだ。だが、批判を完全に抑え込んで、議論を封じるやり方はがさつと言わざるを得ない。

 左派の言い分に従えば、後期中絶に反対することは、女性の「性と生殖に関する健康」への戦いということになる。医療保険改革法(オバマケア)の無料の避妊薬提供に反対することも同じだ。

 宗教の自由な実践への侵害だとして、この規則に反対する人もいる。もっと単純に、自分なりの価値観をもとに、神学とは無関係な理由で反対する人もいる。新法のもとではあらゆるものがカバーされるが、避妊薬など一部は無料で提供される。避妊薬はどこまで、特別な地位を与えられるのか。母親は避妊薬の提供を受け、病気の子供の抗生剤の代金は母親が一部を負担することになる。どうして、避妊薬が病気の子供への抗生剤より格が上なのか。

 しかし、そんなことを言おうものなら、女性の「避妊薬の使用」を否定したと批判される。

 女性のための新しい給与公正法はどうだろう。これは、法廷弁護士の完全雇用法とほぼ同じだ。性差別はすでに違法とされている。これらの新法によって、原告は意図的に差別されたことを証明しやすくなる。提訴するには、その職場で女性の給与が男性より少ないことを示すだけでいい。

 だがホワイトハウスもこれに当てはまる。ここでの給与は、男性の1㌦に対して女性は88㌣だからだ。

 だが、これはいわゆる「差別的効果」だ。経験や職歴などを反映した結果の差異であり、オバマ大統領が意図的に女性職員を差別していると考える人はいないだろう。しかし、そのような考えに疑問を持つだけで、異端的とされてしまう。

 だが、いいこともある。「女性への戦争」という非難はあまり支持されておらず、選挙への大衆扇動の道具だ。しかし、流れは強まっている。その流れに反対すれば、否定論者、偏屈、同性愛恐怖症、性差別主義者、国民の敵にされてしまう。

 この全体主義的な傾向は強まっている。どうすればいいのか。方針に違いがあっても、全体主義の傾向に反対する人々と手を組むことだ。それが米国のやり方だ。