冷戦の脱却を解くオバマ氏

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

領土回復を狙うロシア

米国への疑念強める同盟国

 「米国は欧州を東西間の戦場とは思っていない。ウクライナの問題はゼロサムゲームとも思っていない。このような思考は、冷戦の終結とともになくなるはずだった」-オバマ大統領、3月24日

 【ワシントン】なるほど、素晴らしい意見だ。オバマ氏は5年前にも国連で同じような素晴らしい発言をしている。「いかなる国も、他国の支配を試みることはできないし、すべきでない」

 ミス・アメリカ・コンテストの応募者が、夢は何かと聞かれたときの答えとしてはあり得るだろう。だが、自由世界のリーダーが、外交政策を説明する際の言葉としてはあり得ない。

 東欧の人々は、東欧が今も欧米とロシアとの間の戦場であることも、ロシアが東欧諸国を自国の影響圏内に取り戻したいと思っていることも知っている。ウクライナの人々は何万人ものロシア兵が国境を越えてくるのを見、今、目の前で繰り広げられているのが、勝つか負けるかのまさにゼロサムゲームであることを知っている。

 オバマ氏の考えは、その逆だ。プーチン氏の新帝国主義的な考え方は過去の遺物だと主張し、冷戦からの脱却をプーチン氏に説いた。

 やれやれ、プーチン氏はいまだにロシア革命を引きずっている。先週のクリミア併合時のプーチン氏の演説のテキストを誰もオバマ氏に渡さなかったのだろうか。プーチン氏は、1990年代にロシアが帝国を失ったことを批判しただけでなく、1920年代にまでさかのぼって「革命後、ボルシェビキは事もあろうに、歴史的にロシア領であった南部の広大な地域をウクライナ共和国に渡した」と語った。プーチン氏はクリミアだけでなく、ハリコフとドネツク、ウクライナ南東部の他の地域にも次の標的の候補として言及した。

 領土回復主義者プーチン氏の嘆きは深い。オバマ氏にはそれが分からない。ロシアを誤解していたのではないか、実際は米国にとって最大の地政学的敵国ではないのかという質問に対して、軽蔑的な感じで、ロシアは「地域大国」であり、今回の行動は「力のなさから」来たものにほかならないと答えた。

 地域大国とはどういうことだろう。ヒトラーのドイツと東条英機の日本も地域大国だったが、少なくとも5000万人もの死者を出した。ロシアは超大国米国とは比較にならないが、現在の大統領の下では米国よりはるかに上手だ。オバマ氏は「リセット」で取り入ろうとし、「結果を招く」と脅したがそれらは奏功せず、ロシアはクリミアを併合した。

 併合すれば「結果を招く」などまるで冗談だ。19世紀、20世紀に無数の欧州の兵士がクリミアのために死亡した。プーチン氏は、3週間という短期間で、ひそかに、ロシア兵の誰もけがさせることなくクリミアを占領した。そのどこが「力のなさ」なのか。

 実際にはオバマ氏がロシアを地域大国と軽視したことで、超大国のリーダーとしてのオバマ氏の立場はいっそう危うくなった。日本の降伏後70年、11人の大統領の下での米国の使命は、力の均衡を図り、潜在的な地域的覇権国から小さな同盟国を守ることにあった。

 同盟国は今、どう思っているだろう。日本、韓国、台湾、フィリピンなど環太平洋友好国は、中国が勢力を拡大し、覇権を主張した場合に米国はどうするつもりなのか疑いを持ち始めている。ペルシャ湾岸諸国は、イランとの核交渉に米国が本気でないことに驚いている。これでは、湾岸諸国にとって国家の存亡が懸かるシーア派敵国イランの核保有を、数週間引き伸ばすことができる程度だろう。

 米国は第2次大戦後、歴史が与えた「自由の存続と成就のため」(ケネディ元大統領)の重荷を進んで負おうとしたわけではなかった。米国の指導力が失われれば、世界は混乱に陥るか、中国、ロシア、イランのような国々の支配を受けるようになるという厳しい現実があり、米国は、当然ながらこれを受け入れることはできない。

 オバマ氏はこの現実が分かっていないようだ。ロシアがクリミアの最後の海軍基地を接収した26日、ブリュッセルでの演説でオバマ氏は、ロシアがウクライナへの侵攻をさらに進めればさらなる措置を講じるとあいまいな言い方をする一方で、ここでも国際法、国際規範、国連などの国際機関の重要性を強調した。

 このような非現実的な考え方をしていれば、米国の同盟国は二つの選択を迫られることになる。敗北するか、完全武装するかだ。近隣のいじめっ子に嫌々従うか、ライオンを飼う、つまり核を持つかだ。まず、湾岸諸国が保有し、日本、韓国がこれに続くだろう。

 ウクライナ人でさえ、書類上での領土の一体性の保障の代わりに、核を手放したことを後悔している。1994年ブダペスト覚書は時代の先端を行ったものだった。21世紀の先進的思考とでもいうべきものの手本だ。これを米国の大統領は支持した。ロシアが接収したウクライナの最後の艦艇の艦長は、ロシアの艦隊にこの覚書を見せるべきだった。

(3月28日)