対露制裁で欧州と協力を

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

国防費の増額が必要

クリミア侵入招いた融和策

 【ワシントン】ロサンゼルス国際問題評議会の会長は、オバマ大統領のウクライナ政策への批判に反論し、「どうしようというのか。101空挺師団をクリミアに送れというのか」と語った。あまり賢明な言い方とは思えない。誰もそんなことは考えていない。

 消極的な現政策の代わりに求められているのは、戦争ではなく、真剣な外交政策だ。この5年間、オバマ氏の融和政策は成果を出せず、イラン、シリアの攻勢を許し、中国は東シナ海に、ロシアはウクライナに進出した。だが、過ぎたことはしようがない。大切なのは今何をすべきかだ。

 米国が目指すべき点が三つある。容易な順に挙げると、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を安心させること、ウクライナへのロシアの侵入を止めること、クリミアの併合を阻止することだ。

 NATO加盟国を安心させる

 米国はすでに航空機を送り、バルト諸国周辺の空域のパトロールを行っている。それでは不十分だ。

 ①統合参謀本部議長をバルト諸国に送り、合同演習の準備をすべきだ。

 ②ウクライナと国境を接するNATO4加盟国、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアに対しても同様の措置を取る。

 ③オバマ氏がロシアをなだめるために一方的に破棄した、ポーランド、チェコとの間のミサイル防衛協定を直ちに復活させる。

 ウクライナへのロシアの侵入を止める

 ①米駆逐艦トラクスタンがルーマニアとブルガリアとともに現在行っている黒海での演習を拡大する。直ちに追加、継続の命令を出すべきだ。

 ②クリミア以外にもロシア軍がさらに軍事侵攻すれば、NATOは直ちにウクライナ政府の要望に応え兵器を供給すると宣言する。これには、数多くのNATOの教官、顧問らのウクライナ入りが伴う。

 これは地上戦戦略ではない。「陽動部隊」戦略であり、ドイツと朝鮮半島で50年間にわたって効果を上げてきた。ロシアがウクライナに侵攻しようとすれば、NATOの教官・顧問の小規模な陽動部隊が動く。ソ連の過激な拡大主義者らもその危険を冒そうとはしなかった。プーチンもそのはずだ。そのため、少なくともウクライナ西部の中心部分周辺を保護することができるようになる。

 クリミアの併合を阻止する

 これが最も難しい。短い時間では無理だろう。軍事的手段は取れない。ロシアがすでにすべてを軍事的に押さえている。ウクライナ軍は非常に弱い。外交と経済という手段を取るしかない。

 まず、ロシア占領下のクリミアが分離された場合、直ちにG8からロシアを追放する必要がある。臆病なメルケル・ドイツ首相を慌てさせないように、こちらが引くことで始める。つまり、7民主国家すべてがG8から脱退し、直ちにもともとあったG7を復活させる。

 経済制裁に関しては、今のところ貧弱だ。何も決まっていないし、何も進んでいない。個人に罰則を加えることを承認しただけだ。

 名前を挙げ、資産を凍結する。しかし、効果を上げるには、広範な制裁が必要だ。それらは欧州の協力が必要になる。制裁は最終的には、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、企業、銀行を西側の金融システムから切り離す。これは経済的な「核オプション」であり、イランを屈服させ、交渉のテーブルに着かせた。ロシアの経済にも破壊的な影響が及ぶはすだ。

 今のところドイツ、フランス、英国は二の足を踏んでいる。ロシアとの経済的なつながりが非常に強いからだ。

 そのため、短期的、中期的には決定的なことは何もできない。しかし、長期的にロシアの首を強く絞めることはできる。

 強力な制裁を可能にするには欧州がまず、ロシアのガスを絶つ必要がある。オバマ氏は、約25ある液化天然ガス輸出施設への承認を速やかに行うようエネルギー省に命じるべきだ。すべての決定を6週間以内に行う必要がある。

 第二に、議会指導部と超党派の協議を行い、国防費の緊急増額を求める。米軍を現状または、それ以上の規模で維持するために国防費に少なくとも年間1000億㌦を取り戻す必要がある。オバマ氏はしたくないだろうが、すべきだ。予算を削減し、米陸軍の規模を1940年の水準にまで縮小することは、米国が世界から手を引くことにほかならない。

 弱い外交政策を取った大統領はオバマ氏が初めてではない。ジミー・カーター元大統領も同じような傾向があったが、ロシアがアフガニスタンに侵攻すると変わった。目からうろこが落ちたのだ。カーター氏は強力な対応を取り、ソ連への穀物の禁輸、モスクワ・オリンピックのボイコット、国防費の増額を実施した。さらに、米国がムジャヒディンへの大規模な軍事支援を開始したことを示すために、これ見よがしに銃を持ったズビグニュー・ブレジンスキー氏をハイバル峠に派遣した。ムジャヒディンの抵抗によって、その後10年間にわたってロシア人の血が流され、アフガンだけでなく、世界的な大帝国としての力も失った。

 アフガン侵攻がカーター氏を幻想から目覚めさせた。オバマ氏はどうだろうか。