赤アリータイから
地球だより
わが国では赤茶色で殺人アリの異名を持つ南米原産のヒアリが発見され騒動が起きたことがあるが、タイ東北部のイサーンでは、赤アリというと地元民の食指が動く。
タイではアリそのものを食材とする調理法もあるが、人気があるのは赤アリの卵スープだ。具材として空心菜やキノコを煮込み、トッピングとしてゆでた赤アリの卵が乗せられる。
赤アリは卵だけではなく孵(ふ)化したての幼虫も少々混ざっている。卵のほうはプリプリしていて、それなりにうまい。強いて言えば、小エビの味だ。ただ幼虫のほうは成長の度合いにもよるが酸っぱいものが多い。どうやらアリが出すギ酸のせいらしい。
スープそのものも酸度が強い。タイ料理は、甘味と酸味、それに辛みのバランスをうまくとったものが多いが、赤アリの卵スープは酸度の方に軸足を置いている。
赤アリはマンゴーの木などに列をなして動いているのを、よく見掛ける。どうやら、マンゴーの実の付け根あたりににじみ出る甘い樹液を食料としているらしい。なお、アリの情報収集能力はずぬけている。庭の草花から落ちた青虫がいれば、アリはほぼ時間をおくことなく見つけてしまう。いつも巡回していて、だれかが遭遇するのだろう。
「足で書け」と言われる記者稼業にとっては、アリこそは敬愛すべきものだが、タイ人にとっては胃袋に放り込まれる対象だ。
(T)