戦争を政治利用するオバマ大統領

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

ゲーツ元長官が述懐

政治的に好都合だった増派

 【ワシントン】ゲーツ元国防長官は著書の中で、2011年初めまでに、オバマ大統領は「自分の(アフガニスタン)戦略に自信がなく、この戦争を自身の戦争とは考えていない」と断言していた。

 「自身の戦争ではない」とはどういうことだろう。米国は戦争を戦っている。オバマ氏は米国の大統領だ。兵士らは戦場で撃たれている。それはどの大統領の下で始まった戦争であろうと同じだ。実際に、アフガンで殺害された米国人の4人に3人は、オバマ氏の指揮下で死亡している。

 そればかりかゲーツ氏は、そのかなり前からオバマ氏に対して不信感を持っていた。その1年前、高官2人が、公表された政策を公然と否定する行動を取ったのはなぜかをゲーツ氏は探っていた。そして「最も可能性の高いのは、大統領自身が、うまくいくと承認していた戦略を心の底では信じていなかったからだ」という結論に達した。その結果、アフガンへの30万人の「増派」を命じたわずか4カ月後に、「米国の安全、…同盟国の安全、世界の安全が脅かされている」という警告を自国に発することになった。

 オバマ氏が自身の政策に自信を持っていなかったことをゲーツ氏は内部情報から暴露したのだが、ここで奇妙な点がある。これは誰もがすでに知っていたという点だ。オバマ氏の発言は最初から矛盾をはらんでいた。陸軍士官学校で行った演説で増派を発表した後に、1年半で増派の兵士らを撤収させることを明らかにしていたのだ。

 戦争とは本来、不確かで、予測のつかないものだ。これほど早い段階で、正確な撤退計画を持っている司令官がいるだろうか。これをみれば、真剣でないことは敵でも味方でも分かる。オバマ氏はこれにさらに輪を掛けるように、「私が最も建設していきたい国は私の国だ」と語り、増派を約束しておきながら、その戦争を軽視するような態度を取った。

 当時、指摘したことだが、このような大統領の矛盾する態度のせいで、かつてないほどの大きな不安が走った。オバマ氏がアフガン問題を真剣には捉えていないことを知っている人はいた。

 今なら、誰にでも分かることだ。オバマ政権で国防長官を務めていたゲーツ氏は、ほとんどの兵士らが戦場に到着し、新しい戦略が試される数カ月前にはこのことが分かっていた。

 善良な司令官が、自身が成功すると思ってもいない作戦に兵士を送るだろうか。一部は帰還することのないことが分かっていながら、兵士らを送るだろうか。そればかりかオバマ氏は、状況を深刻にし、流血を拡大しておきながら、政治的には一切犠牲を払わなかった。ゲーツ氏は、オバマ氏がその後4年間にわたって、アフガン戦争に関して説明することも、支援することも、国民をまとめようともしなかったと、悔しさも記している。

 オバマ氏が増派部隊の撤退を完了させたのは、2012年の戦闘が激しくなっている時期だった。軍事的にはちぐはぐだが、政治的には都合がいい。再選への選挙運動で「戦争の波は後退している」と訴えることができたからだ。

 だが、一つ疑問が残る。アフガン戦争に本気で臨んでいないのなら、勝利する気がないのなら、どうして最初に、兵士らを戦場に送ったのかという点だ。

 その理由は、民主党が、マクガバン張りの平和主義による政治的自殺行為を回避しながらイラク戦争を否定するための争点としてアフガンを利用したということだ。政治コンサルタントのボブ・シュラム氏は後に「2004年にケリー陣営に加わった。選挙運動で、民主党はアフガンの問題を 『正しい戦争』として捉えてきたと主張した。これは確かに、ブッシュ政権批判と同様、正解だった、しかし、逆の効果もあった。今では政策としては、間違いだったのではないかとみられている」と指摘した。

 分かりやすく言うとこうだ。アフガンについて真剣に考えたことなどなかった。イラク戦争でもそうだったようだ。ゲーツ氏は、ヒラリー・クリントン氏が政治的理由からイラクへの増派に反対したことを認め、オバマ氏が、政治的理由による反対が多かったことを認めたことに大きな衝撃を受けたと回顧している。イラク戦争は悪、アフガン戦争は善という民主党の主張は、弱気だと思われることなく、反ブッシュ・反イラク戦争感情に訴えるための党派的道具にすぎなかったということだ。

 屈強で、分別もあると思わせたかったのだ。

 オバマ氏は、イラク戦争は愚かな戦争だと繰り返し言った。イラク戦争は意図的に起こされた戦争だが、アフガン戦争は不可避な戦争であり、テロとの戦いの最前線だということだ。オバマ氏はこの方針にのっとって、この善なる戦争、賢明な戦争に勝とうとしているところを少なくとも見せる必要があった。

 ゲーツ氏は、「戦略の軍事的部分が、予定した通りに成功することはないと思っていたら、派兵の命令に署名を続けることはなかった」と述懐している。ゲーツ氏の著書によれば、最高司令官オバマ氏に、そのような罪の意識はない。